澁澤龍彦『高丘親王航海記』読了

高丘親王航海記 (文春文庫)

高丘親王航海記 (文春文庫)

2〜3年前に文庫本を購入してから、そのままにしていたものをようやく読み終えました。
たぶん、読み始める前に「大文字の物語」をなんとなく期待していたと思うのですが、すぐに「これはそういうもんじゃないな」と気付きました。括りとしては幻想小説ということになるんでしょうが、なんだろう、そういう枠にはめようとしてもはみ出してしまう作品であるという印象です。
「大文字の物語ではない」と書きましたが、それは、この作品の表面をなぞっていっても血沸き肉踊るようなエピソードには出会えない、というだけのことです。(表面をなぞるだけでも、十分に耽美的な、あるいは蠱惑的なエピソードには出会えますが。)
でも、この作品では、ある意味で「壮大な物語」が展開されているようにも思えます。それは、ある種の人生観というか死生観とでも呼べばいいのでしょうか。この物語を深く味わおうとするなら、自分自身がどのように生きどのように死ぬのか、そういうことに向き合わなくてはならない、そんな気がします。
で、僕自身は、正直なところ、自分がどう死ぬのかということについてリアリティーを持って考えることが、まだまだ難しいと感じています。それは同時に、自分がどう生きるのかが定まっていない、ということを意味しているのかもしれません。定まるときなんてくるのでしょうか? いや、そうではなくて、単純に僕が若くて(と言ってもそんなに若くもない)一応健康だから、「死」を身近に感じないだけなのかもしれませんが。
とにかく、僕は、自分自身がこの作品に追い付いていない、そう思えてしまうんです。もう少し時間を置いて読み直してみたいですね。そのときは、また違った感想を持てるかもしれないから。

マスコミがマイナス感情や危機意識を煽るのはなぜか。

それは、その方が売れるからです。終了。



いやいや、それじゃあまりにもあまりにもなので、「何故売れるのか」について少しだけ。
例えば、自分の住んでいる地域で凶悪事件が起こったとして、新聞・雑誌やテレビなどがそれに関連して特集を組むときに、次のような二つの観点があったとします。

  1. この事件は極めて特殊なケースであって、これをもってこの地域の治安が悪化しているとは言えない。住民は今までどおりの生活を送っても問題無い。
  2. この事件は、この地域の治安が悪化していることを示している。住民は今までの生活を見直して、危機意識を持つべきである。

どちらが売れそうでしょうか。あるいは、読者や視聴者の関心を引くでしょうか。
明らかに後者だと思うわけです。だって、前者の観点ならば、その特集を読んでも読まなくても(見ても見なくても)その後の自分の生活に与える影響はゼロに近いんだもの。ところが、後者の観点ならば、その特集の内容を知っているかどうかは、その後の生活に大きな影響を与える可能性があるのです。読者(視聴者)は、必然的に後者の観点により大きな関心を払うでしょう。
マスコミだって営利企業なんですから、売れなくちゃしょうがない。テレビなら視聴率を稼がなくちゃいけない(それが広告料収入に直結しているから)。ならば、事実(あるいは事実から導き出される推論)がどうあれ、取るべき方針は「後者の観点に基づいて特集を組むこと」になるんじゃないか、と。
で、危機意識というものは、「ここまで用心すれば安心」ということにはなかなかならないものです。心配の種というものを全て取り除くことは、極めて難しい(というか、不可能である)からです。だから、逆に言うと、危機意識を煽れば煽るほど、マスコミの売り上げは伸びることになる。媒体によっては、抑制とか自制が働いている場合もあるかもしれませんが、僕の目に入る範囲に限っては、ある流れ(煽る方向付け)ができると、大体みんなそっちの方に流れて行っちゃってるなぁ、という感じですね。


マイナス感情を煽るというのもこれと似たような感じかな、と。
刑事事件の容疑者というのは、反社会的な行為をした者として「悪」にしておかなければならない(と、マスコミは考えている)。そして、マスコミはその人物がいかに「悪」であるかを描き出し、読者(視聴者)の関心を引く。それを「このような悪人を生み出すほど、社会全体が悪い方向に向かっている」という危機意識に結び付けていく。その危機意識を煽ることによって売り上げを伸ばそうとする。そういうことなんじゃないでしょうか。



ひとつ付け加えておくと、僕は「だからマスコミは駄目なんだ」と言いたいわけではないです。こういう見方もできるよね、ということを言っているだけです。マスコミには駄目なところもあるけれど、良いところもたくさんあるわけですから。
まぁ、マスコミの言説に「何か煽られてるな」と感じたら、ちょっと注意しましょうね、ってことで。