人生なんて、たった一枚のレコードで簡単に変わっちまうんだ。本当だぜ。

だって、俺がそうだったから。
問題は、そんなレコード(CDでもiTunesでも1曲単位でもなんでもいいんですが)には、滅多に出会えないこと。ちなみに、僕の人生を変えたレコードは…、ここには書きません。それは自分だけの秘密だもの。
だから、僕の人生を変えなかったレコードについて書きます。(なんだそりゃ)いや、レコードじゃなくてCDなんだけど。


宇多田ヒカルの『ULTRA BLUE』をようやく聴いたのですが、ちょっとこの人やっぱり天才、と思いました。これを10代の僕が聴いていたら、確実に人生が変わってたな。今聴いても人生が変わらないのは、それだけいろんなものを抱えるようになって、身軽には動けなくなってしまったから。
それはともかく、この人の感情表現はほんとすごい。悲しいとか嬉しいとか、人の感情にはいろいろあるわけだけど、そんなふうに分かりやすく名付けられる以前の複雑で曖昧な気持ちの「そのまま」 が表現されている。
「ストレートな感情表現」と言うと、「好きだー」とか「大っ嫌い!」とか「悲しくて悲しくてしょうがない」みたいなものをつい思い浮かべがちだけれど、そんなものは本当はストレートでもなんでもなくて、いびつに加工されたものなんだ、ということが、このアルバムを聴くとよく分かります。本当の「ストレート」って、こういうもののことを言うんだぜ、というか。
感情って、白とか黒とか判然としなくて、灰色とか青とか赤とかオレンジとかカーキとかその他の様々な色が、バラバラに、あるいは混ざりあって、キャンバスにぶちまけられている抽象画みたいなものだと思います。そして、それをきちんと表現しつつ、しかし、けっして抽象画にはならないところが、宇多田ヒカルという人のすごさなのではないか、と。
でも、一方で10代の僕にはこれはきっと分からなかっただろうな、とも思います。当時の僕はそんなに視野が広くなかった、いや狭かったから。でもでも、今の10代の子たちには分かるはずだ、とも思うんですよ。だから、このアルバムを聴いて人生が変わってしまう経験ができる人たちのことが、僕は羨ましくてしかたないのです。
うーん、傑作。