「AVに出演した過去=過ち/恥ずべき事/隠すべき過去」は自明のことですか、そうですか。

本当はまず、映画『スカイ・クロラ』について書こうと思っていたのだが、それより、気になることが目に入ってきたので、そっちを先に片付けておく。映画については、「後で書く」ということで。


http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1156484.html
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結婚して3年になる妻が過去にAV出演していました。悩んでます。発覚は友人が持... - Yahoo!知恵袋
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まー、はてブで拾ったネタなわけですが、結婚して3年経ってから妻のAV出演歴が明らかになったのだけど、どうしたらいいんでしょうか、という。
もうね、夫婦のことは夫婦で解決してくださいね、としか言いようがないわけですが。それはそれとして、気になったことがありまして。
というのは、「AVに出たなんてとんでもない。絶対離婚するべき」みたいな意見にしても、「過去は過去として、今の奥さんを大事にしてあげて」みたいな意見にしても、タイトルに書いたとおりですが、どちらも「AVに出演した過去=過ち/恥ずべき事/隠すべき過去」というような意識を背景にしているような気がしたんですね。これって、世間で一般的な認識ということでよいのでしょうか?
と、わざわざ書くからには、お察しの通り、僕は必ずしも「AVに出演した過去=過ち/恥ずべき事/隠すべき過去」とは考えていないわけです。もうちょっと言うと、現在進行形で「AVに出演すること=過ち/恥ずべき事/隠すべきこと」とも、必ずしも思いません。
まず、「恥ずべきこと」なのかどうかは、当の本人が決めるべきことです。自分のしたこと、していることが、恥ずかしいかどうかなんて、他人に言われる筋合いではありません。しかし、「隠すべきこと」かどうかというのは、「世間の目」から逃れられないことであるのも、なんとなく分かります。要するに、世間が極端に言えば「AVに出るような女はまともな人間ではない」という認識でいるからこそ、その過去は隠さなくてはならなくなるわけです。
僕の主観から言えば、AVに出演することは、単なる一つの仕事であって、それ以上でも以下でもありません。
それから、余談ですが、AVを風俗や売春と同様なものと見なしている人も多そうですが、これらは大分違うものだと思います。どちらが良い悪いではなく。AVというのはメディアであって、影響力の違いはあれど、テレビとかラジオとか映画とかにむしろ近い。風俗などというものは、サービス業・接客業の一種であって、AVというものとはかなり異なる。テレビに出ているタレントさんと、飲み屋のホステスさんは、職業としては(似た部分もありつつ)やはり根本的に違うものでしょう。繰り返しますが、どちらが良い悪いということではありません。
思うに、セックスに関わる職業というだけで、嫌悪する人がかなり存在している。
いわゆる風俗やソープランドのようなグレーゾーンの売春業を嫌悪する人、AVに出演することを嫌悪する人。でも、そういう人でもヘテロの男性であれば、かなりの確率でAVを見てますよね。そして、その多くは積極的にそれを楽しんでますよね。風俗が大好きだという人もなかには居ますよね、きっと。そのセックスに関わる職業を嫌悪することと、風俗に行ったりAVを鑑賞したりするのとを、自分の中で矛盾なく成立させている心性とはどういうものだろうか、とか思ったりします。そこに踏み込んでもいいし、実際のところ、そういう男性多いよね、という察しもつくのですが、たぶん、他の人が書いてくれるのではないかと期待して、このくらいにしておきます。


で、ここで当然予想されるのは、「お前の奥さんがAVに出てたとしても、同じことが言えるのかよ」というブーメランですが、うーん、どうでしょうね。そりゃ、その時になってみないと分かりませんよ、だし、それは僕ら夫婦の問題なんだから、他人がとやかく言うな、でもあるし。
けれども、一般論である、なおかつ主観であるという断りを入れさせてもらえば、id:legnumさんが言う「過去を気にせず結婚しといて後から過去に問題があったとかクレーマーだろアホか」という意見にはかなり賛成ですよ。出来ちゃった婚にしたって、結婚するからにはそういうことも織り込み済みなんですよ。「病める時も健やかなる時も」という誓いの言葉は伊達じゃないんですよ、と。
結婚前にAVへの出演歴があると分かったら結婚しなかったか、という問いであるなら、そんなことは今さら言ってみてもしょうがないじゃん、という言葉をぐっと飲み込んで、「だって、あなた、そうは言っても世間の目は厳しくて、つい言わずに済ませてしまったんだよ」ということでしょ、と。2ちゃんねるのまとめブログでもあれだけ叩かれちゃうわけですよ。とても、堂々と言える状況ではない。言っちゃ悪いけど、この旦那さんが、「そんなの関係ないよ、過去がどうであってもお前を俺は受け入れるよ」ということを口先だけでなく体現できる人であったなら、結婚前に奥さんの方から言えたかもしれない。でも、そんな男は一握り、というのが現状で、だったら黙ってるのもしょうがないな、と。
つまり、奥さんは隠したかったわけでは必ずしもなくて、意志はどうあれ隠さざるをえないのが、今の世間の空気なんでしょ、と。
離婚がどうのとかは、あとは当事者で解決しなさいよ、としか言えない。


話があちこち飛んで申し訳ないですが、かつて『フィラデルフィア』という素晴らしい映画がありまして、主演トム・ハンクス、共演デンゼル・ワシントン、監督ジョナサン・デミ。その中で、トム・ハンクスはゲイでエイズに感染する弁護士を演じています。後に、彼は勤務先の法律事務所から解雇され、それが不当なものであると裁判を起こします。その裁判の中で、彼が勤務先に対して、自分自身のセクシュアリティを打ち明けていなかったのは不誠実ではないか、という追求を受けるくだりがあるのですが、そこでトム・ハンクスは「ゲイであることを言おうかどうか悩んでいた時に、同僚たちがゲイを嘲笑する話で盛り上がっているのを聞いて、自分がゲイであることを言わなくて良かった、と心底思った」というような趣旨のことを言います。それを受けて、彼の弁護を担当するデンゼル・ワシントン演ずるもう一人の弁護士がとる戦術が明らかに変わります。敵味方に関係なく証人たちに向かって「あなたはゲイですか?」と問う。最後のスピーチでデンゼルは言います、「みんな、自分自身がゲイであることを告白すべきだ」と。そのことによって、世間の目を、価値観を変えるんだ、と。*1
トム・ハンクスの逡巡と苦悩、デンゼルが戦術的・戦略的に繰り出す「I am gay.」という言葉。初めて見た10代の終わりの僕は、はっきり言って、何にも分かっちゃいなかった。でも、分からないなりに偏見の恐ろしさや愚かさについて考えました。


さて、『フィラデルフィア』の話と、今回のAVの件は問題の所在が全然違っていますが、なんとなく繋がっている気はしています。
「ゲイであることは隠すべきこと」と強要することと、「AVに出たことは隠すべきこと」と強要することの裏には、ベクトルは違えど、よく似た感情が渦巻いています。異質なものに対する、恐怖、嫌悪、憎悪が。


23mm(nijuusannmiri) on Twitter: "あー、言いたいことを一言で言うと、お前らAV女優さんには散々お世話になってるんだろうから、もっと敬意を払え、と。"

追記(2008/8/13)

2008年08月13日 Francesco3 性, 結婚 なんでわざわざセックスワークを「グレーゾーンの売春業」って言い換えているのかまったくわからない。グレーゾーン?言い換えのせいで「どちらが良い悪いじゃない」と言いながら優劣をつけているように思える。

はてなブックマーク - 「AVに出演した過去=過ち/恥ずべき事/隠すべき過去」は自明のことですか、そうですか。 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は

id:Francesco3さんから、上記のようなブクマコメントを頂きました。確かに、その通りだな、と。そもそも、俺、何で言い換えたんだろう。
たぶん、ソープランドみたいに看板掲げてやってるところと、それ以外を無意識のうちに区別しようとしてたのかな、という気がします。よくよく考えてみれば、看板掲げていようがいまいが、区別する意味はないですね。そこらへん、僕自身の中の差別心が露呈してしまったのかもしれません。そこは率直に反省します。
というわけで、「ソープランドのようなグレーゾーンの」は上記のように、削除します。削除線で消しただけにしたのは、こういうことを書いた自分を忘れない、というか棚に上げないためです。


あと、なまえさん、コメントありがとうございます。マジレスすると、他にも何人かそこを指摘してる人が居ましたが、そして、正直それは僕も思わないでもありませんでしたが、世間的に見て「美しい」かどうかと、旦那さんの主観で見て「美しい」かどうか、またその美しさゆえに好きになれるのか(愛せるのか)、というのは、それぞれ別の問題だもんな、と思うわけですよ。だから、なまえさんが奥さんの容姿についておっしゃっているのなら、そこは微妙すぎるので、あんまり触れたくないです、僕は。

追記(2008/8/14)

Francesco3さんより、したのコメント欄に「売春業」という言葉についてのコメントを頂きました。恥ずかしながら「セックスワーク」という言葉について、これまでよく知りませんでした。そちらもご参照ください。
このエントリの表現については、僕の無知を晒しておく意味もあるだろうと考えますので、あえて訂正はしないつもりです。

*1:ここら辺、記憶だけを頼りに書いているので、実際の映画の中のニュアンスと大分異なっているかもしれません。この映画はほんとに素晴らしい作品なので、未見の方は、是非見てほしいですね。