貧困ビジネス、続報メモ、その3。

関連→『貧困ビジネスの一例。というか、毎日新聞のスクープなんじゃね、これ。 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は
  →『貧困ビジネス、続報メモ。 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は
  →『貧困ビジネス、続報メモ、その2。 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は
他に書きたいネタもあったんですが、このネタにまた動きがあったようなので、とりあえず、メモメモ。
『続報メモ、その2』で取り上げた朝日新聞の「国税局が告発するらしい」というのが、実際にそうなりましたよ、と。ざっとみた感じでは、中日新聞が比較的分かりやすく、突っ込んでいろいろ書いてる様子。以下、引用していきます。

 生活保護受給者を対象にした「無料低額宿泊所」などで挙げた所得計5億円を申告せず隠していたとして、名古屋国税局が宿泊所事業者「FIS」のこれまでの実質的経営者の藤野富美男氏(45)=東京都文京区=と、元幹部2人を所得税法違反の疑いで、名古屋地検に告発していたことが分かった。

 近年、社会問題となっている「貧困ビジネス」を舞台にした3人の脱税総額は2007年までの3年間で1億7000万円。国税当局による強制調査は初めてで、3人とも修正申告に応じたという。

 関係者によると、藤野氏ら3人は02年ごろから、届け出制の無料低額宿泊所や無届けの宿泊施設に失業者や路上生活者らを住まわせ、地方自治体が毎月支給する12万円前後の生活保護費から家賃などの利用料約9万円を徴収。人件費や光熱費などの必要経費を除いた利益を、3人で分配していたのに、個人所得として申告していなかった疑いがもたれている。

 無申告だった利益は、藤野氏の個人口座を経由して、自治体や官公庁との調整を担当していた飯島利夫元幹部(45)=東京都北区、宿泊所の運営を担当していた坂井正行元幹部(51)=同=にそれぞれ渡っていたもようだ。
(後略)

中日新聞:「無料宿泊所」経営者ら5億円所得隠し 名古屋国税局告発:社会(CHUNICHI Web)

リンク先の図もまあまあ分かりやすい感じです。
さらに、中日は告発された元経営者・元幹部の人たちへの取材に成功したもよう。

(前略)
 藤野富美男元経営者(45)=東京都文京区=は「所得隠しを指摘されたのは事実。施設の賃貸料に含まれる敷金や礼金を先払いし、税金を払えなかったという事情もあるが、真摯(しんし)に受け止めている」と話した。藤野元経営者は2007年までの3年間で3億円の所得を隠し、1億円強を脱税したとされる。

 1億円の所得隠しが指摘された飯島利夫元幹部(45)=東京都北区=は「対外的な折衝などによる報酬を申告しなかった。既に修正申告した」と説明。脱税額は07年までの3年間で3000万円弱とみられるが、「弁護士と相談しているのでコメントできない。特に何かに使ったということはない」と続けた。

 もう一人の坂井正行元幹部(51)=同=は「社会的制裁、罰を受けるのは当然だと思う。申し訳ない」と謝罪した。関係者によると、坂井元幹部が申告しなかったのは07年までの2年間で9000万円、脱税額は3000万円前後とみられる。

中日新聞:FIS元経営者ら所得隠し認める 無料宿泊所脱税:社会(CHUNICHI Web)

中日のもう一つ別の記事には、脱税した資金がどう使われたかについて少し書かれています。

(前略)
 関係者によると、脱税した資金は実質的経営者とみられる藤野富美男氏(45)や別の元幹部の自宅購入資金に充てられたほか、経営陣のうちの一人と親しいとされる女性が名古屋市内で建てた住宅の購入費にも使われたとみられている。

 登記簿によると、藤野氏は2004年から05年にかけて敷地を購入し3階建て住宅を新築。元幹部は05年に2階建て中古住宅を購入した。一方、女性の住宅は高級住宅地として知られる名古屋市東区の住宅街の用地約390平方メートルに2008年1月末、新築された延べ床面積約260平方メートルの豪邸で、評価額は1億円以上と見込まれる。

 本紙の取材に対し、名古屋市東区の住宅で応対した人物は、インターホン越しに「本人は留守」と答えた。
(後略)

中日新聞:脱税資金で自宅購入か 告発されたFIS経営者ら:社会(CHUNICHI Web)

「関係者」というのは誰でしょうかね。これが本当だとすると、本人のコメントとは齟齬があるようですが。さて、どうなんでしょうか。
一方、この団体にマスコミで最初に注目したと思われる毎日新聞も、地味に追い上げを見せています。

(前略)
 埼玉県内にあるFISの宿泊所の入所者や元入所者の男性によると、宿泊所では食事の調理を担当する「厨房(ちゅうぼう)係」や、施設長の業務を補助する「班長」として入所者が働いていた。

 厨房係は4人程度が交代制で担当、働く日数に応じて毎月「給料」が支払われていたが、多い場合でも月額4万円、少ない場合は1万円程度だった。班長は入所者が夜間に部屋にいるかどうかをチェックしたり、施設長らの指示を受けて備品を運ぶなど雑務をこなしていたが、給料は月約1万〜2万円だった。厨房係も班長も他の入所者同様、生活保護費から利用料を支払っていた。

 入所者の一人は「厨房で働き始めた当初は週5日働いて1万5000円だった。朝から晩まで拘束され、就職活動もできないのに、1日当たりの収入は1000円に満たない」と明かした。

 一方、横浜市内の宿泊所に入所していた男性は、施設内の事務所で働き、金銭管理などを任されていた。男性は「手当として月1万5000円しかもらえなかった」と証言。施設には外部から採用された住み込みの男性職員がいたが「月給4万円で保険証もないので病院にもいけない」となげいていたという。

脱税低額宿泊所:入所者、月1〜4万円で調理・事務担当 - 毎日jp(毎日新聞)

施設の人件費を抑えるために、いろいろやってたらしいぞ、と。「高額」な利用料の割りに、サービスは悪いんじゃねーか、やっぱり、ということみたいですね。しかし、これが本当なら、この最低賃金を軽くぶっ飛ばす金額もすごいですね。
この記事で一つ疑問なのは、入所者が月1万円から4万円くらいの収入を得ていたということですが、これは社会福祉事務所に申告されているんでしょうか。
生活保護制度においては、保護を受けている人は何らかの収入があれば、必ず社会福祉事務所にその旨を申告しないといけないはずです。その収入によって保護費の受取額が減額されたりもします。収入があるにもかかわらず申告しなかった場合は、不正受給と見なされる場合もありますし、最悪の場合、詐欺罪などで告発される可能性すらあります。
この記事のケースだと、申告されていなかったとすれば、厨房や事務の仕事をしていた人たちが不正受給していたことになってしまいます。また、施設側が「申告しなくていい」などと指導していたりしたら、施設も不正受給を幇助していたと見なされる可能性もあるのではないでしょうか。もちろん、きちんと収入が申告されていれば何の問題もありませんし、この入所者が生活保護を受けていなければ、そもそも関係ない話にはなりますが。
で、これを受けてか、厚生労働省も動くようです。

 同省は今回の脱税容疑での告発を受け、FISの各施設の経理を精査する必要があると判断。利益が入居者に十分還元されていない可能性があり、行政処分も念頭に「自治体への通達を検討している」としている。

脱税容疑の無料宿泊所、調査へ 厚労省方針 - 47NEWS(よんななニュース

だそうです。
あと、無料低額宿泊所について、厚生労働省は「優良施設」と「貧困ビジネス型施設」に分けて、優良施設には助成金を出す案を検討するそうです。

 入所者の金銭管理や処遇などでトラブルが相次いでいる「無料低額宿泊所」の問題で厚生労働省は、入所者に自立・就労支援をするなどの優良な施設に対し、10年度から運営費の助成に乗り出す。入所者支援を重視する優良施設と、支援をせずに生活保護費をピンハネするような「貧困ビジネス」型施設を選別していく。
(中略)
 厚労省によると、09年6月末時点で都道府県などが把握している無料低額宿泊所は439施設。同省は自立支援を担う職員の配置を補助の最低要件と考えているが、9割を超す407施設で既に配置されており、優良施設の絞り込みが課題となりそうだ。

無料低額宿泊所:厚労省、運営費助成へ 優良施設を選別 - 毎日jp(毎日新聞)

予算額は5億から10億円を見込んでいるそうですが、本当にどうやって優良か否かを選別するんでしょうか。客観的な指標が当然必要なわけですが、今後の動きにも注目したいと思います。個人的には、助成そのものは必要だろうと考えますが。
それと、こういった一連の流れによって、まがりなりにも「住居」を手に入れた元ホームレスの人たちがまたもや路上に逆戻りする、というような事態だけは避けてほしいと思います。俺の考えは、何度も書いていますが、「貧困ビジネスそのものは否定しないし、必要悪である側面もある」ということですから。