貧困ビジネスができるまで。(注意! 本エントリはフィクションです。)

※このエントリはフィクションです。全て俺の脳内で作り出された幻、夢日記みたいなもの、ということを踏まえてお読み下さい。

1.ジレンマ

90年代後半から00年代にかけて、ホームレス問題の解決はこの国でも懸案事項だった。草の根ではそれよりずっと前から継続的に支援活動が行われてきたが、政府がこの問題に曲がりなりにも取り組みだしたのはこの頃だ。具体的には小泉政権下でいわゆる「ホームレス自立支援特措法」が制定されるのと前後して、ホームレス状態にある人のホームレスからの脱却を支援する試みが始まった。
それとは別に、従来から生活困窮者へのセーフティネットとしては生活保護制度があったが、この制度をホームレス状態にある人に適用するのには、ひとつのハードルがあった。それは「住居」の有無だ。簡単に言えば、住居がないホームレスは生活の実態がつかみづらく、そのため生活保護を適用すべきかどうか判断が難しいとされていた、ということだ。(そして、事実上ホームレスは住居がないことを理由に生活保護を受けることが難しかった。少なくともなんらかの施設への入所を経たうえでなければ、アパートへの入居の支援が行われることもほとんどなかった。)
ホームレスからの脱却には生活保護による支援が必要なケースがあっても、住居がないことによって生活保護が受けられないというジレンマは、当のホームレス状態にある人のみならず、それに対応を迫られる自治体の担当者にとっても悩みの種だった。

2.生活保護社会福祉事業

生活保護制度というのは、「ある種の人々」にとっては非常に魅力的な制度である。
受けるのは難しいと言われている反面、一度保護を受けるとそれを打ち切ることはそれほど容易ではないからだ。意欲が旺盛で、すぐに仕事を見つけ自立していく者は別だが、意欲があっても仕事を見つけられない状況の人と意欲が少なく仕事を見つける気がない者を区別することは極めて難しいし、何よりも保護を打ち切られれば生活に困ることが明白なケースでは、例え意欲がないことが明白な場合でも生活保護を打ち切ることは、特に相手とじかに接する担当者にとってはある意味で勇気のいる決断だろう。
これを逆手にとって、自分たちの利益を税金から掠め取ろうと考える「組織された集団」というものが居たとしても、さほど不思議ではない。時折、行政対象暴力というものが話題になるが、生活保護の担当窓口はこの手の暴力との攻防が行われている場でもある。もちろん、それは全体からみればごく一部である。
しかし、「組織された集団」の構成員が、自ら生活保護を受けることによって利益を得ようとするのには自ずと限界がある。上限はかなり明確に存在するということもある。できれば、もっと「おいしい」手段があれば、それを使いたい。
さて、社会福祉事業というのは、実施主体が国や自治体や社会福祉法人などに限定される「第1種社会福祉事業」と、実施主体に制限のない「第2種社会福祉事業」に分かれている。興味深いのは、事業を始める前の準備は前者と後者ではかなりの差がある(例えば、後者は届出制だ。やる気なれば、個人でもやれる)にもかかわらず、どちらも収益事業ではない部分の収入については非課税になるという優遇措置を受けられるという点だ。つまり、利用者から料金を取っても、それが利用者に提供されるサービスの必要経費なら、その収入は非課税ということだ。必要経費には、施設であれば職員の人件費や建物の賃貸料や維持費も含まれる。これ自体は特に問題はない。
そして、この第2種社会福祉事業の中に、「無料低額宿泊所」という事業がある。「組織された集団」がこれに目をつけても不思議はない。

3.無料低額宿泊所

1の自治体とホームレスの生活保護をめぐるジレンマに、この事業はアクロバティックな解決策を提示した。
ホームレス状態にある人をこの事業で運営する施設に入所させ、それと同時に生活保護の申請をさせる。この「宿泊所」を住居ということにしてしまって、ハードルを越えたでしょとやったわけだ。そこで、「そんな『宿泊所』は住居とは認められない」と行政がつっぱねてしまえば、「集団」のもくろみは崩れてしまっただろうが、これが通ってしまったわけだ。その時に、「集団」のなんらかの運動があったかどうかは分からない。
ちなみに、宿泊所の建物というのは、使われなくなった会社寮を改装したものであったり、プレハブに毛の生えた程度のものであったりいろいろだ。最初のうちは間仕切りもなく、ルームシェアリングというか雑居房というかそんな感じのところもあったとかなかったとか。さすがに雑居じゃ住居じゃないだろ、ということでそれは改善されたはずだが、どんな壁ができたのかは知らない。
それで首尾よく生活保護を受けられるようになり生活保護費を受給した入所者から、施設は金を取る。これが無料でも低額でも何でもない、というのはちょっと調べればすぐに分かる話。そのことに疑問をもつ入所者が居ても、それはそれで「集団」の凄みというか力というか…、おっと誰か来たようだ。
結果的に、ホームレスは一応「住居」を手に入れ、自治体は問題を先送りにでき、施設は潤う、という考えようによっては、Win-Win-Winの関係というかシステムができあがるという、もう、素晴らしすぎて反吐が出るね。もとは生活保護費だから、税金なんだけどね。

4.金の流れに身を任せ

かくして、貧困ビジネスは出来上がるわけだが、俺は前にも書いたけれどこの事業そのものを悪だとは思わない。強いて言えば、必要悪、だろうか。少なくとも、屋根と壁とあるところに寝ることができて、飯を食うことができるからね。それすらない状態からすれば、幾分かはマシだろう。それでも、かなりひどい状態に置かれているのは間違いないので、待遇は改善されなければいけないし、施設にいつまでもいるわけにもいかなければ適切な支援を受けられるようにしなければならないのは自明のことだ。
ただ、この入所者から巻き上げ、じゃなかった、徴収した金がどこへどういう風に流れるのかは気になる。
2で触れた第2種社会福祉事業云々というのは、税制上の優遇措置を受けるための方便であるのは、まあ、そうだろう。
これを福祉事業ではなく、純然たる営利目的の事業として行うことはできるし、実際そうやっているところもある。ある意味でそれは貧困者向け有料老人ホームである、と言うこともできるだろう。でも、やっぱり税金かかっちゃうのよね。払わずに済むならそうしたいよね、と。
しかし、優遇措置も「収益部門」には適用されないので、その辺はうまく工夫しないといけない。職員の給料というのは経費の一部だけれど、これには個人に対する所得税とかもいろいろかかっちゃうので、あんまり過大にはできない。施設や土地の賃料や光熱水費などの維持費を大きくしちゃうのもうまくない*1。そこで、トンネル会社とかペーパー会社に架空の業務を委託したことにして(その委託業務はサービスを提供するのに必要だということにして)利益を移してしまうというのは、丸っきり違法である(詐欺だよ)という問題を別にすればなかなか悪くない手だ。なんだっけ、ランドリーだかロンダリングだかロンドンコーリングだか言うんでしょ。知らね。ま、全部が架空だとまずいから少しは何らかの業務をやらしてるんだろうけどね。
あー、たぶん「組織された集団」は、普通は警察や税務署には喧嘩は売らない。その意味では生活保護を担当する行政の中の福祉部門なんて、ちょろいもんだと舐められてる可能性はあるかも。それに、ホームレス相手の商売というのは普通の人にとってはまだ敷居が高い、というかリスクが高いと思われてるという問題はあるかも。「集団」なら、その辺の問題にも強いということも実際のところあるんだろう。
それから、この状況を放置してきた行政の責任はもちろんあるけれど、それは世間が無関心だったからだよ。行政というのは世論にとても敏感になっているので、世間が騒げばころっと態度を変える。世間が黙ってれば、問題を先送りにとりあえずしてしまうという傾向は、残念ながら、ある。そういうことばっかりじゃないとは思うが。


というわけで、いろいろ書いてきたけれど、俺が今、興味があるのは「金の流れ」なのよね、結局、と。


※えーと、だから、このエントリはフィクションですってば! 実在する人物・団体その他とは一切関係ありませんので、その点はくれぐれも誤解なきようよろしくお願いします。

*1:賃料については、はずれ。いや、フィクションだからいいんだけど。