エミネムとアイドルについてちょっと。

僕はエミネムをシリアスな表現者だと思っていて、それは1年半くらい前に別ブログ(つーか、ずっと開店休業状態なんで旧ブログだ、本当は)に書いた『ストリートか檻の中か』って記事の中でも、そう書いている。あー、今読み返したら、それなりにいい文章じゃないか、これ? いっそ全文コピペしちゃおう。↓

前にも少し書いたと思うのだが、僕が好きな音楽は基本的にはロックばかりだ。
だから、好きなヒップホップのアーティストはそんなに多くない。ここに挙げたエミネムと、あとはサイプレス・ヒルビースティー・ボーイズスヌープ・ドッグくらいか。(非黒人のアーティストが多いけれど、別に意識的に選んでるわけじゃない。)
エミネムとサイプレスはアルバムを全部持っているくらい好きなんだが。
エミネムのベストアルバムは、まぁヒット曲集ではあるが、曲順などもよく考えられていて、オリジナルアルバムと比べても遜色ない内容になっている。なかなかいい。
これを聴くとエミネムというのは、やはりシリアスな表現者であることがよくわかる。くだらない内容の曲も彼の手にかかると、鬼気迫るものになる。
もちろんラップはむちゃくちゃ上手い。そして、ほんとに優れた作詞家であると思う。


さて、そのエミネムをBGMにして読んだのが上記の『プリズン・ボーイズ―奇跡の作文教室』だ。
ピュリッツァー賞ノミネート作家(受賞者ではない)である著者が、アメリカ・カリフォルニア州の中央少年院で作文クラスを(ボランティアで)指導する過程を描いたノンフィクション物である。
その少年院に収容されているのは殺人などの重罪を犯した少年たちで、彼らの多くは裁判の公判待ちか公判中である。そんな彼らの書く文章は、意外なほど正直で、時に読む者の胸を打つ…。というのがものすごく大雑把な内容だ。
著者の少年たちへの偏見や先入観が、いかに変わっていくかが一つの読みどころになっている。
翻訳には少し疑問に思うところが無いわけではない(原文と照らし合わせたわけではないので、はっきりとは言えないのだけど)が、欠点となるほどではない。
あと、日米の法制度はかなり違うので、単純に「日本に置き換えたら…」とは考えない方がいいかも。
良書であることは間違いないと思うので、興味を引かれた方は是非どうぞ。


ただ、ここではこの本の評価をしたいわけではない。
作文クラスで書かれた文章は、上手い下手こそあるが、どれも素晴らしいものだ。
なぜ素晴らしいのか。それは、どこかから借りてきた言葉ではなくて、彼ら自身の言葉で語られているからだ。むしろ技術的には高くはないために、かえって彼ら自身がむき出しになっているようにも見える。
さらにすごいと思うのは、少年たちの中には「"本当"のことを書かなくちゃ駄目だ。自分自身を吐き出して、そして見つめ直さなくちゃいけない」と考え、意識的にそれをしている者もいる、ということだ。
これは、文章を書く人ならわかると思うけれど、なかなかできることじゃない。
書いたものを読み直して暗くなってしまうことも、僕はしょっちゅうだし。
もちろん本書に収録するにあたって、削られたものもたくさんあるだろうから、全てが素晴らしいというわけじゃないはず。でも、少なくとも本書の中で取り上げられたものを読むと、僕は「すげぇな」と思うんだ。


ある意味で、エミネムの書くリリック(歌詞)と少年たちの書く文章は、共通するものがあると思う。
どちらも自分の身を削るようにして、しぼり出された言葉だからだ。
違うのは、エミネムはその言葉をストリートで見つけ(今の彼はそこには居ないかもしれないけれど)、少年たちは檻の中で見つけた、ということ。
読み終わった後に切なさが残るのは、そのせいなんだろう。

カーテン・コール。~ザ・ヒッツ デラックス・エディション

カーテン・コール。~ザ・ヒッツ デラックス・エディション

プリズン・ボーイズ―奇跡の作文教室

プリズン・ボーイズ―奇跡の作文教室

上の文章はこれら↑を紹介するために書いた。本はね、すげーいい本ですよ。読んでない人は読んだ方がいいと思います。ちょっと補足しとくと、この本に出てくる少年たちは、ほとんどが殺人などの重罪を犯している。大体が刑務所行きで、しかもかなり長期の懲役刑*1になる。あなたは、そんな連中に作文を教えたって無駄じゃないか、って思うかもしれない。僕もそう思った。この本の作者は「少しのいいことは、いいことがまったくないよりはいい」(うろ覚え)という意味のことを書いている。それが正しいかどうかよくわからない。今でもよく分からない。


さて、話がずれたが、エミネムのこと。彼のことをアイドルだと見なしている人もいて、たしかyukiさんも大分前にそのようなことを発言していた記憶がある。*2yukiさんは「エミネムはアイドルだから好き」という文脈で言われていたと思う。
で、僕としてはそういう意見も賛成できる。エミネム?はいはい、あの白人のアイドルラッパーね、みたいなふうな言い方も全然許容できる。僕にとって「アイドル」という言葉は「最強」という言葉とほとんど同義だからだ。世の中でアイドルほど最強なものってないよな、と。アイドルであり、シリアスな表現者(アーチスト(笑))でもあることは全然矛盾しないし。
ビートルズもアイドル。美空ひばりもアイドル。まぁ、そういうこと。僕にとっては、ブルーハーツBLANKEY JET CITYもアイドル。僕のアイドル。



それでまた、話はくるっと変わるのだけれど、いわゆる「アイドル」という職業の人たちがいる。「マイナーなアイドル」なんてよくよく考えてみれば語義矛盾も甚だしいが、そういう言い方が通用してしまうというジャンルがある。そういう意味での「アイドル」という言葉と、僕がここまでに書いてきた文脈においての「アイドル」という言葉にはかなりのズレがある。
でも、ま、なんというかそのズレもひっくるめて全部一緒でいいんじゃないのかな、というふうに最近は思っている。例えば、エミネムを「アイドル」と呼ぶとき、それが前者の意味合いか後者の意味合いかはそんなに意識されないだろうし、特に問題にならないような気がする。
アイドルをその立ち位置や成り立ちゆえに嫌う、という心理は分からなくはない。軽薄そうだとか子供だましじゃないかとか、そういうイメージゆえに見下されることも多いし、それは今後もなくならないだろうと思う。実際、高校生ぐらいまでは僕もそう思っていた。
でも、ある時点で僕はアイドルを馬鹿にしたり嫌ったりすることをやめた。何かきっかけがあったわけではなくて、気付いたらそういうふうになってた。そして、そういうフラットな目線で眺めてみれば、あれはあれで必死で真剣な生き方であって、他の職業についている人たち同様に十分尊敬に値する、という当たり前の事実に気が付いた。もちろん、全ての人が尊敬に値するわけではない、というのも他の人たちと同様だけどね。


突然なんでこういうことを書く気になったのかというと、最近ちょっと実生活でというか健康上の理由で気分が盛り上がらなくてですね、無理にでも少し上げとこうか、と。必死に真剣に生きてる人が、俺は好き、ってことです。

*1:確か終身刑もありうるはず。詳しいことは忘れてしまったが。また読み直すか。

*2:記憶があるだけで、どこでそういう発言があったか不明。ちょっと検索したくらいでは分からなかった。