『考える生き方』感想

今年初めての更新ですね。もうすぐ3分の1が終わってしまいますが。
で、finalventさんの著書が刊行されたということで、だいぶ前に読み終わってはいたんですが、感想を、と。実は1ヶ月以上前に感想を書きかけていたんですが、書ききれていなかったんですね。(その時は山形浩生さんの書評に絡めて何か書こうかとも思ってましたが、それはやめ。 )

考える生き方

考える生き方

自分にとって、この本はどういう意味があるのか。たぶん、折に触れて読み返す本になりそうだな、という気がしています。
俺とfinalventさんでは19歳くらい年齢が離れているし、その人生に起きてきたこともだいぶ違います。それなのに、「ああ、これはまるで俺だな」と思えるようなことがいくつもあって、不思議な読後感でした。
俺自身のことを書くと、大学を卒業後、高校の非常勤講師を1年やった後、どう考えても教師には向いてないなとその世界から足を洗って、フリーターを2年半くらいやったあと、今の仕事(内緒)に就いたんですね。そこに至るまでの宙ぶらりんな感覚とか、今の仕事に就いてからのあまり思い出したくないようないろんな出来事なんかを、この本を読みながら、思い出したりしました。finalventさんが辿られた経過とはもちろん全然異なるわけですが、第1章の「社会に出て考えたこと」に書かれている転職の話から、「ああ、こういうこと、あるよね」と思えたというか。
第1章の話をもう少しすると、そこで「仕事というのは、つきつめると、『市民であるかが問われる』ということだ」という言葉があって、これが自分の人生に地味に効いてきそうだな、と感じています。
自分にとって仕事というのは「食い扶持を稼ぐ」というのが一番大きいわけですが、生きていくだけだったら、そんなに頑張らなくてもいいんじゃね、という考え方もあると思います。結局、人というのは「自分のため」だけにはそんなに努力したり頑張ったりできないもんだよな、というのが今の実感。それは、俺には養うべき家族がいるのでそのために頑張る、ということだけでもないんですね。自分の仕事が、社会に貢献している、簡単に言えば、誰かの役に立っている、そういう風に感じられることが大事だと思うんです。
それで、「市民」ということを考えた時に、自分が仕事に向き合う姿勢が問われる。例えば、商売をやるときに一番重要なのは「信用を売る」ことなんじゃないか、と俺は思っています。世の中には、その信用を売る詐欺もあるわけですが、まっとうなものを、まっとうなやり方で売り、それに見合った対価を得る、そういうことが自分の仕事のあり方に響いてくる。逆に、何かがまっとうでないと感じたとき、それを正せるかどうか、そこがポイントなんじゃないかと思います。それは単純な「正義」では割り切れない部分が大きく、難しいことではあるんですが、少なくとも自分自身の心の中では常に持っていたいことではあります。


と、この調子で書いていくと、長文になりそうなので、思いっきり端折っていきますが、家族のこと、沖縄のこと、病気のこと、勉強のこと、老いるということ、それぞれの章を読んで、いろんなことを考えさせられました。これからも考え続けていくことも多いと思います。自分なりに勉強して、深めていきたい部分もあります。


最後にひとつ。
大学での教育はリベラル・アーツ的なものを重視した方がいい、という趣旨の話が出てくるんですが、それはきっとその通りだろうと思います。俺はというと、リベラル・アーツをきちんと押さえていないなという自覚があるので、今から少しでも取り返したい気持ちが湧きました。
実はこの本を読むのに前後して、吉野裕子さんの『扇』という本を読みました。吉野先生という人は、50歳を過ぎてから民俗学に入っていった人です。『扇』という本の内容そのものもとても面白かったのですが、この本の最後に吉野先生自身が自分の研究の道程について書かれている文章が付いています。(ただし、これは『扇』が1984年に再刊されたときに付けられたもので、1970年の初刊時のものには付いていません。)
それを読むと、吉野先生は女子学習院を1934年に卒業されていて、これは現在の制度から見れば高卒くらいの学歴にあたるようなのですが、そのときに、既に文学や古典についての基礎教養をかなり身に付けていらっしゃったようです。その後、東京文理科大学の聴講生をされたり、戦後には津田塾大学を卒業(1954年で、既に38歳のとき)されているのですが、若い頃に身に付けた教養があったからこそ、年齢を重ねたときにそれが活かされた、ということなんだろうと。俺自身が吉野先生のようになりたいとか、見習いたいということでは必ずしもないのですが、リベラル・アーツを学んでおくことが、その後の人生を(精神的に)豊かにする、ということの一つの好例である、と思いました。

扇―性と古代信仰

扇―性と古代信仰


他にもいろいろ書きたいことがあるような気もしますが、とりあえずこの辺で。

2012年 私的洋楽ベスト15

さて、洋楽編です。邦楽編もロックに偏ってましたが、こっちも思いっきり偏ってます。


15位 Adler 『Back From The Dead』

Back from the Dead

Back from the Dead

これをリストに入れたいがために、ベスト15にしたという、ね。ガンズのオリジナルメンバーだったスティーブン・アドラー(ドラム)の新バンド、というかソロプロジェクトなのかな。今のところCDリリースはされてないみたいです。俺はAmazonMP3で買いました。
今どき、このど直球なLAメタルはかえって新鮮でしたね。これってただのバックチェリーじゃないか、という気もしますが、バックチェリーの元ネタをやってた人なんで許します(笑)。いや、ほんとにこれ力作だと思います。これがガンズの新作として出たとしたら、ちょっとがっかりだけど…、いやいやいや、ほんと好きなんですよ、これ。



14位 Jack White 『Blunderbuss』

Blunderbuss

Blunderbuss

White Stripesはなんとなくオシャレな人たちが好んで聴いてそうな雰囲気が気に食わなくて、全然聴いてませんでした。はい、言いがかりです。これは聴いてて楽しめたので、そのうちWSも聴くかも。



13位 Therapy? 『A Brief Crack Of Light』

A Brief Crack of Light

A Brief Crack of Light

Therapy?は90年代に活躍したバンド、という風にずっと俺も思ってたのですが、実は解散もせずにずっと活動し続けていた、ということを今年になって知って、そのタイミングでちょうど新作がリリースされたので、ついAmazonMP3で買ってしまいました。90年代もアルバムごとに大きく音楽性を変えてきたバンドだったんですが、このアルバムも当然のように90年代とは違うサウンドに仕上がっています。おっさんになっても現在進行形のへヴィロックを鳴らそうとするその姿勢が好きです。



12位 Vintage Trouble 『The Bomb Shelter Sessions』

Bomb Shelter Sessions

Bomb Shelter Sessions

これ、ほんとは2011年のリリースなんで、2012年のベストに入れるのは反則なんですけど、日本に本格的に紹介されたのは今年、ということで見逃してください。
これはリズム&ブルースをベースにしたロックンロールなんですが、こういうのをちゃんとモッズスーツでびしっと決めてやる、というのが多分一番「モテる」音楽ですね(笑)。実際、かっこいいです。ハードコアとかへヴィロックとかあんまりモテないです(苦笑)。いや、音楽そのものとモテるモテないは関係ないんですが。こういう「黒い」グルーヴというのも、たまにはいいな、というか。そのうちストーンズもちゃんと聴くかな。



11位 Neil Young & Crazy Horse 『Psychedelic Pill』

Psychedelic Pill (2cd)

Psychedelic Pill (2cd)

これは「怪作」の類かな。1曲目から27分超えの大曲という。それでいてプログレ的に構築された曲かというと全然そんなことはなく、タイトル通り、サイケデリックであり、フォークであり、グランジ的なフレーズが延々繰り返されるだけ、というもの。聴くと必ずこちらの体力を削られるタイプの作品ですね。



10位 Cloud Nothings 『Attack On Memory』

Attack on Memory

Attack on Memory

USインディーロックですね。これをスティーブ・アルビニが手掛けたということで、興味を持って聴いたのですが、これが当たり。個人的には、メタル色を感じさせないオルタナティブロックとしては久々にガツンと来ました。正直、ボーカルはちょっと弱い気がしますが、ベテランやロートルが多いこのリストの中で、これはほんとに若いバンドなんで、そこは目をつぶって今後にも期待。


9位 Muse 『The 2nd Law』

The 2nd Law

The 2nd Law

Museも若手と思ってたら、いつの間にかでかいバンドになりましたねー。結構大胆な新機軸の導入もありましたが、全体としてはたいへんMuseらしいシアトリカルかつへヴィなロックサウンドになりました。



8位 Mark Lanegan Band 『Blues Funeral』

Blues Funeral

Blues Funeral

これは激渋な傑作でした。これを聴いたおかげで、俺は今まで手を出してなかったScreaming Treesにまで手を出しちゃいました。聴きましょう。



7位 The Heavy 『The Glorious Dead.』

THE GLORIOUS DEAD [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC346)

THE GLORIOUS DEAD [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC346)

これもリズム&ブルースをベースにしたロックンロールですね。イギリスのバンドです。ただ、これはVTに比較すると打ち込みも使ってちょっとモダンな要素もあります。全体的には、黒いドロッとしたグルーヴがたまらん、ということで。



6位 Aerosmith 『Music From Another Dimension!』

Music from Another Dimension

Music from Another Dimension

大御所の新作というのは、ちょっと聴く方も緊張してしまうものです。外れだと、その悲しみも倍加するというか。Aerosmithの新作はファンの期待にきっちり応えるクオリティに仕上がっていました。そして90年代のようなゴージャスなハードロック路線の名残もありつつ、70年代のようなストイックなロックンロールサウンドを鳴らすことにも成功しています。まー、このバンドはスティーブン・タイラーがいかに気持ちよく歌えるかが肝、というのはずっと変わらないですね。何よりも2012年にエアロの新作が聴けるなんて、10年前には思いもしなかったなー。



5位 Deftones 『Koi No Yokan』

Koi No Yokan

Koi No Yokan

このタイトルが付いた経緯は知りません(笑)。これを最初に聴いた時の印象は「うお、キャッチーだな」というものでした。と言っても、Deftonesであることは変わりません。へヴィロックのベテランがこうして意欲的な力作を出してくるというのも今年の収穫でした。



4位 Frank Ocean 『channel ORANGE』

Channel Orange

Channel Orange

このリストの中では唯一の非ロック作品、ということになりますね。アルバム発売前にいろいろあって話題を振りまいた作品になってしまいましたが、そういうノイズを排除して聴いても素晴らしい作品であることは間違いないです。俺はいわゆる現代のR&Bの良いリスナーではないのですが、こういう内省的でありながら色気もある音楽というのは、聴いててゾクゾクしますね。各所で絶賛されているのも分かる、というか。



3位 Converge 『All We Love We Leave Behind』

All We Love We Leave Behind

All We Love We Leave Behind

ハードコアです! しかし、今年のメタルアルバムベストみたいなリストにも必ず名前が上がる作品でもあります。ハードコアやメタルのエクストリームな部分では多分に重なり合っているということの象徴みたいなバンドですね。これは聴くと暴れたくなる音楽。



2位 Soundgarden 『King Animal』

King Animal

King Animal

シアトルグランジの重鎮の再結成後初となるアルバムです。これはひょっとしたら最高傑作なのではないか、という気さえする力作に仕上がりました。とにかく、アルバム全体を通してのテンションが高い。90年代でもこの人たちこんなにアッパーな曲作ってなかったじゃん、などと思ったり。はっきり言ってしまうと、個々の楽曲の出来にばらつきのあった過去のアルバムに比べると、今作は捨て曲のないトータルとして素晴らしいアルバムです。



1位 Led Zeppelin 『Celebration Day』

2012年の第1位が30年以上前に解散したバンドの5年前の再結成ライブの録音、ということでいいのか、というのはTwitterでも何度も書いたことですが、本当なんだから仕方ないわけです。あえてこの作品の意義を書けば、この伝説的なバンドの音と映像が21世紀の品質で記録された、ということです。そして、過去のライブ盤などを聴きながら妄想するしかなかった「あのバンドのライブ」がここにある、ということです。
とにかく聴きましょう。



…というわけで、なんとか最後までたどり着けましたが、これでもあれも入れたかったなーという作品が多く*1、俺としては2012年は結構充実してましたね。そして、まだまだ聴けてない作品も多いので、その辺もこれからまだフォローしていきたいな、と。
ってなわけで、たぶんこれが今年最後の更新になりそうです。来年はもう少し更新頻度が上がるといいかな、と思ってます。

*1:NeurosisやGreen Day、あるいはLamb Of GodやMeshuggahを入れるかどうか、最後まで迷ってました。

2012年 私的邦楽ベスト5

はい、年末ですね。
ブログの方はあいかわらず開店休業状態が続いていますが、今年もいろいろありましたね。と、更新がまれだと、つい時候のあいさつ的なことを書きたくなってしまいますが、省略。
今年はですね、あくまでも俺個人の中ではという限定付きですが、新作音楽アルバムを割と頑張ってたくさん聴いたんですよ。去年くらいまでは、その年に買った新作を挙げてくだけでベスト10とかになっちゃうなー、って感じだったんですが。そこで、今年はこういう「私的ベスト選び」という遊びをしたくなった、というわけです。
ほんとは洋楽も邦楽も混ぜてベスト10くらいでいいか、と思ってたのですが、選んでいくうちにとてもそれで収まりそうもなくなってきたので、洋楽はベスト15、邦楽はベスト5、ということにします。


というわけで、まずは邦楽編から。5位から挙げていきます。


5位 Vio System Divide 『Reason』

Reason

Reason

いきなり友達のやってるバンド*1ですみません。でも、これ、俺のiTunesの再生回数を調べたら、他のどの作品よりダントツで多かったのです。いやいや、これはなかなかの力作ですよ。全6曲のミニアルバムという体裁ですが、メタリカなんかを彷彿とさせるスラッシュ寄りのリフと要所要所に挿入されるブラストビートにガツンとやられます。フルアルバムが待ち遠しい。



4位 exist✝trace 『VIRGIN』

virgin

virgin

女性ばかりの5人組ヴィジュアル系バンドです。以前から名前は知ってましたが、メジャーデビュー後初のフルアルバムとなる今作で、初めてちゃんと聴きました。前はボーカルもグロウル(デス声)をまじえたスタイルだったり、もっとアンダーグラウンドでダークな印象だったのですが、これはなんというか、さわやか?ですね。メタル寄りの音楽性をベースにしつつ、ストレートと言っていいアレンジ、はっきりくっきりした歌謡曲的ですらあるポップな歌メロといった感じ。とは言っても耽美というかシアトリカルな世界観は健在です。簡単に言うとヅカっぽい。
それで、まー、なんというか、ロックだったり、メタルだったり、それこそヴィジュアル系ということだったり、そういうある特定のジャンルとして見た場合、これを今年のベストと言い切れるかというと、ちょっと微妙なのかもしれない、という気もするんですね。でも、それはこのアルバムのクオリティが低いということでは全然ないわけです。このアルバムを聴くと、バンド初心者の子がコピーしたくなるだろうな、ってなことを俺は思います。そういうのって、この手の音楽にとってはものすごいパワーがある、ということだと思うんですよ。そして、良く言えば特定のジャンルには収まりきらないけれど、ポップミュージックの総合力はある、と思います。これはひょっとしたらロック的な歌謡曲なのかもしれないとも思いつつ、それで何が悪い、俺は好きだぜ、ということですね。
余談ですが、俺は昔はこういう作り込まれた世界観のある音楽って苦手だったのですよ。もう少しストリート寄りのものの方が好みなんですが、今はこれはこれで切実な表現なんだということが分かるし、逆にストリート寄りに見える音楽も結構作り込んでいるという裏も見えてしまったり、ということもあって、抵抗は大分なくなりました。



3位 THE BACK HORNリヴスコール

リヴスコール(初回限定盤)(DVD付)

リヴスコール(初回限定盤)(DVD付)

このバンドの説明は要らないですね。俺の中の印象ではずっと若手のバンドのイメージなんですが、もう中堅を越えてると言ってもいいくらいのキャリアになりました。
前作を聴いたときにも思いましたが、このバンドは本当にリズムが強化されてきたな、と感じます。それはいわゆるリズム隊(ドラムやベース)の力量が上がったとかそういうことではなくて、バンド全体の塊としてのリズムがすごく良くなった、と思うのです。例えばこのアルバムの1曲目「トロイメライ」はメロウな雰囲気の曲なのですが、こういう曲でもちょっとやそっとでは揺るがない強靭なリズムというものを感じるんですよ。これははっきり言って初期にはなかったものです。単純に言うと、上手くなった、ということなんですが、それが個々の技術力が上がったということだけではなく、バンド全体の「グルーヴ」として昇華されてきたんだな、と。誤解を恐れずに言えば、レッド・ツェッペリン的なそれ、です。



2位 エレファントカシマシ 『MASTERPIECE』

MASTERPIECE

MASTERPIECE

これはもうベテランの域ですね。もともと大好きなバンドだったんですが、ここ何年かは正直あまりピンとこないと感じたこともありました。しかし、このアルバムの1曲目「我が祈り」を聴いたときに、「宮本浩次の狂気が戻ってきた!」と感じて嬉しかったです。これを俺は聴きたかったんだよ、と。
俺は、日本の3大ロックボーカリストを選ぶとしたら、忌野清志郎浅井健一宮本浩次だと思ってるんですが*2、その宮本くん*3の何がいいのかというと、「狂気」を感じさせるところです。それが最もよく出ているのは『東京の空』というアルバムなのですが、今回のアルバムはそれをちょっと思い出しました。タイトル通り”マスターピース”だと思います。



1位 HeavenstampHEAVENSTAMP

はい、1位はこれです。女声ボーカルの3人組*4です。これはインディーズのシングルが出た直後にたまたまFMでかかっていたのを聴いて、一目ぼれに近い状態で買って聴いていたのですが、これがメジャーデビュー後初のフルアルバムになりますね。シューゲイザー的なUKロックをベースにテクノポップっぽいダンスサウンドも導入した、はっきり言ってイギリスにごろごろ居そうなタイプの音楽です。こういうダンスロックがもともと好きだったかと言われると、そうでもないのですが、これにはハマりましたね。何よりも、曲がいい、と思います。俺からすると、一回りくらいは年下の人たちだと思うんですが、こういう若いバンドがしっかりしたロックをやってるということが、嬉しく感じるという、ね。

*1:ドラムが小中の同級生。

*2:ちなみに、あと2人選ぶなら、甲本ヒロトトータス松本を加えます。THE BACK HORN山田将司が次点。

*3:親しみを込めて、くん付け。

*4:ベースの人がメジャーデビュー後脱退してしまったので、4人組から3人組になった。

風邪引いて寝込んでるのだが、暇なのでちょっとThe Theの歌詞を和訳するとか。

The Theはイギリスのバンド、というか、実質マット・ジョンソンという人のソロ・ブロジェクトに近い。
そのThe Theの1993年に発表されたアルバム『Dusk』は、俺の人生のオールタイムベストを選ぶとしたら常に1位をキープし続ける傑作です。あんまり好きすぎて、人に薦めるのがためらわれるほど。(聴かせてみて「まあまあ良かったよー」とか言われたら、かえってムカつくからです。)
それで、今日は風邪引いてダウンしてるのですが、暇でもあって、気まぐれにこのアルバムのうちから1曲選んで、寝床で歌詞の私訳でもしてみるか、と。
曲は「Love Is Stronger Than Death」。邦題は「愛は死よりも強し」。誤訳御免ということで。
元の歌詞はここら辺で。→ http://www.lyricsfreak.com/t/the/love+is+stronger+than+death_20136170.html

The The - Love Is Stronger Than Death

愛は、愛は


朝の凍えるような光の中を友と歩いていた
涙は僕の眼を見えなくさせるけれど、魂はだまされはしない
この世界で冬が冬ではないなんて


やがて空は晴れ、春がやってくる
川の水量が増す時、涙が乾く時が
全てのものは死に
そしてよみがえる


愛は、愛は死よりも強い
愛は、愛は死よりも強いもの


僕たちは人生の中で触れられないものを欲しがってしまう
口で言い表せない全ての考えや形にならない全ての感情が、僕らの心をもてあそぶんだ
まるで吐く息を白くさせる冷気のように
だけど、悲しみによって目覚めさせられ、僕らの魂は話し出す
「どうやって信じられるだろうか?
種の中の命が、腕を伸ばし、心臓を脈打たせ
唇を微笑ませ、目に涙を流せられるようになるなんてことを
それが死んでしまうなんてありうるだろうか?」


やがて空は晴れ上がり、春がやってくるんだ
川には雪溶け水があふれ、涙は乾くだろう
全てものは死に
そして復活するんだ


愛は、愛は死よりも強い
愛は、愛は死よりも強いもの

元の歌詞は文語調なんだけれど、あえて口語っぽくしてます。そして、非常に宗教的でもある。
あらためて訳してみて分かったのは、これは身近な人を亡くした悲しみを乗り越える歌なんですよね。マット・ジョンソンのプライベートな部分は俺はほとんど知らないのですが、そう考えるほかはない、って感じです。


興が乗ってきたので、ついでにもう1曲。『Dusk』の次の作品として、1995年にリリースされた『Hanky Panky』から。これは、全てハンク・ウィリアムス(カントリーミュージックの伝説的なシンガー・ソングライター)のカバーです。
選んだ曲は「I Saw The Light」。
元の歌詞。→ http://www.lyricsfreak.com/h/hank+williams/i+saw+the+light_20064074.html *1

The The - I Saw The Light

かつて俺は、当てもなくぶらつき、人生は罪で満たされていた
俺は、我が親愛なる救世主を招き入れようとはしなかった
そこへある夜に、イエスがふらっと現れたんだ
ああ、主を称えよ、俺は光を見た


俺は光を見た、光を見たんだ
もう暗闇も夜もごめんだ
今、俺は幸福で、視界に悲しみはない
主を称えよ、俺は光を見たんだ


まるで盲目であるかのように、俺は一人さまよっていた
悩みや恐れは俺自身が求めたものだった
そして神は盲目の男に視力をまた与えてくださった
主を称えよ、俺は光を見た


俺は光を見た、光を見たんだ
もう暗闇も夜も要らない
今、俺は幸せで、悲しみは見えない
主を称えよ、俺は光を見たんだ


俺は愚かで放浪し、道に迷い、
まっとうな生き方からは程遠かった
今や間違いは正しいことと取り替えたんだ
主を称えよ、俺は光を見た


俺は光を見た、光を見たんだ
もう暗闇も夜もごめんだ
今、俺は幸せで、悲しみは見えない
主を称えよ、俺は光を見たんだ

*1:ただし、The Theのバージョンとはちょっと違います。alongとaloneの違い、とか。

『めぞん一刻』感想

【第3回】めぞん一刻(高橋留美子)前編|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス)
【第4回】めぞん一刻(高橋留美子)中編|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス)
【第5回】めぞん一刻(高橋留美子)後編|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス)

上のリンク先の記事の全文を読むには、有料登録が必要なのでご注意を。
 そのリンク先のfinalventさんの書評を読んで、あらためて『めぞん一刻』をきちんと読んでみようと思い立って、書店で全巻まとめて買ってきましたよ、と。

めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)

めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)

 以下の感想は、この作品を全部読んでる人に読んでもらってる、という前提で書きます。
 まず、『めぞん一刻』を最初から最後まで通しで読んだのは(もっと言うと、完結した高橋留美子作品を通しで読んだのは)、これが初めて。
ただ、これは俺が小学生の時にテレビアニメ化されていて最初の頃は見ていた*1し、原作漫画の方も喫茶店か床屋かで断片的にパラパラ眺めることはあったので、おおまかに設定や登場人物などの内容は頭に入ってはいました。けれども、アニメはラブコメの「ラブ」の方に比重が傾いて、当時10〜11歳くらいの俺にとっては苦手な部類の作品になっていったので、途中で見なくなりました。まー、サンデー/スピリッツよりもジャンプが好きだったし、『めぞん』よりは『聖闘士星矢』とかの方が、ね、と。*2
 ということで、『めぞん』は俺にとってはずっと「俺にはあんまり関係ないカテゴリの作品」だったわけです。
 で、今回初めて通しで読んでみて、「あー、小学生の俺では、これは読んでも分からんかったわ」と思いましたね。中学生でもダメだったかな。俺は「なんで五代は、何を考えてるのかよく分からない管理人さんなんかより、そこそこかわいくて明らかに自分に好意を持ってくれているこずえちゃんで手を打たないのか」*3とか思ってた小学生だったので、恋愛の機微なんて全然わかってなかったわけです。ちなみに俺の奥さんは中学生の時に『めぞん』は読んでたと言ってましたが、まー、女子はなー。


 アニメの『めぞん』の響子さんは始終何か思いつめているというか、はっきり言って、いかにも「幸薄そうな女性」という印象でした。そもそも俺は「幸薄い感じの女性」というのが苦手なんですよね。それはともかく。ところが、漫画の方は、そういう雰囲気も残しつつ、響子さんかなり活発だし元気じゃないか、という。もちろん最愛の人を失った悲しみとか影とかは持ってるわけですが、俺が思っていたよりも普通の人だったな、と。
 で、アニメの『めぞん』もネット上にはごろごろ転がってて*4、それこそ25年ぶりくらいで見直してみると、やっぱりアニメの方は響子さんのキャラクターをだいぶセーブしてるな、と感じました。静と動の「静」の方寄りの描写になってる。
 だからというか、アニメよりも漫画の方が個人的な好みには合いました。


 漫画の内容についてですが、今回はfinalventさんの書評をあらかじめ頭に入れたうえで読んでいるので、どうしてもその解釈の答え合わせをするような読み方になってしまいました。そのような読み方をしても、というか、話の中で起こる出来事とかストーリーの流れが分かっていても、かなり面白い読書体験ではありましたが。この当時の高橋留美子というのはほんとに面白かったんだなー、と。
 それで、概ねfinalventさんの解釈については得心がいったのですが、それだけだと俺がわざわざ感想を書く意味がないので、もしこれに付け加えられるものがあるとしたら、何かな、と。
 『めぞん』を読みながら、俺は漠然と「朱美さんっていい女だよな」と感じていたのですが、その「いい女」ってどういうことなんだろうか、と。俺がこういうさばけた感じでなおかつエロい雰囲気の人が好きだ、ということもあるんでしょうけど。けど、終盤の五代と響子さんの大げんか(というか、響子さんが一方的に切れる)の時の、朱美さんが響子さんに放った台詞がよかった。

ろくに手も握らせない男のことで、泣くわわめくわ、どうなってんの。
あんたみたいな面倒くさい女から男とるほど、あたし物好きじゃないわよ。バカ。

いや、これ、読者の気持ちを完璧に代弁してくれてるよな、と。読者というか俺の気持ちを。
そもそもこのケンカの原因には朱美さんにも責任の一端があるんですが、こういうことをさらっと言ってしまえるところには痺れるよね、と。これは朱美さんなりの優しさですよ。「あんた五代くんのこと、好きなんでしょ。もっと素直になりなさいよ」という意味ですからね。似たようなことを考える人は他にもたくさんいるようで、「ろくに手も握らせない」でネット検索してみるだけで、いろいろ出てきます。
そうなんだよな、響子さんってめんどくさい人なんだよな。それなりに事情があるとはいえ、きちんと付き合ってもいない男にヤキモチ焼いたり、相手の話も聞かずに冷たくしたり、いったいこの人なんなんだろ、と。
一方、朱美さんは男運はかなり悪い。それこそ、ラブホテルで酔いつぶれて男に逃げられちゃうくらい、男運が悪い。けれども、響子さんみたいな意味でのめんどくささはない。それが「いい女」かというと、そういう訳じゃないんだけど、昔「BSマンガ夜話」という番組で、TARAKOさんが

朱美さんて、もしかしたら五代が好きだったんじゃないかなって(同意の声多数)。でもそれをひた隠しにして、いい女じゃないですか。

「BSマンガ夜話」から

と発言してたということを今回知って*5、ああ、そういう解釈もありか、と。ちなみにアニメの方では、そう解釈できるような脚色が結構されてるように思います。
 その辺を確認したくて、もう一度この作品を頭から読み直してみて、朱美さんが五代のことを好きだった可能性はそんなにないかなとは思ったのですが、五代のことを弟みたいに感じていた、という意味の台詞は出てくるので、その辺は響子さんが五代に対して最初は「手のかかる弟ができた気分」と感じていたという辺りとかぶってはいます。もしかしたら、響子さんがいなければ、五代と朱美さんがどうかなっていた可能性もゼロではないかな、くらいのことは言ってもいいかもしれない。あと、少なくとも朱美さんは五代がそれなりにいい男に成長してきているのをきちんと見抜いていたんじゃないか、という気もします。一の瀬さんもそうなんだけど、終わりの方は完全に響子さんとの関係について五代を応援するモードになってる。
 朱美さんは自分自身のことでは男運は悪いかもしれないけれど、見る目がないわけじゃない。そして、上に引用したような厳しい台詞を吐いてしまえるやさしさもある。これは俺から見るとかなり「いい女」だし、スナック茶々丸のマスターもそう思ったんでしょう。


 さて、2回読んでみて、俺はやっぱり響子さんが良く分からないんですよね。もちろん、頭では理解できてるつもりなんだけど。そこで、奥さんとちょっと話し合ってみたところ、

めぞん一刻』の2周目を読み終わって、ますます朱美さんの「ろくに手も握らせない男のことで、泣くわわめくわ、どうなってんの」という台詞がしみるなー、ほんとどうなってんの、と思うという話を奥さんにしてみたら、「響子さん一人っ子でしょ。すごく分かりやすい」と言われた。な、なるほど。

https://twitter.com/nijuusannmiri/status/262517213691518976

んで、

んで、俺と奥さんの共通の知人の名前をあげて、「響子さん見てると、○○子のことを思い出す。彼女なりの常識があるんだけど、あくまでの*6彼女にとっての常識でしかない」とも言われ、あー確かに、と納得させられた。一人っ子型の性格かどうかは別にして、そういう人って実在するんだな、と。

https://twitter.com/nijuusannmiri/status/262518286544154625

という話になったわけですが、これで多少腑に落ちたところはあります。
一人っ子というか一人娘の響子さん、弟の五代(姉がいる)、兄の三鷹さん(妹がいる)、姉のこずえちゃん(弟がいる)、一人娘の八神いぶき、朱美さんは不明、と見ていくと何となく分からないでもないな、と。
こういう兄弟姉妹がいるかいないかで性格が決まるかのような話は、世間ではよくあるものなんですが、科学的な検証に耐えうるようなことでも実はなさそうなんで、そこを前面に押し出した解釈はどうかとも思います。だけど、この作品の中では、その辺も含めたステレオタイプなキャラ付けがされてると見てもいいのかもしれません。
あと、もう少し注意深く響子さんの両親や五代の親族なんかを見ると、それぞれの性格がこういう風に形成されているのもある程度理解できる。実際、響子さんとその母親の律子さんは、性格もかなり似ています。一人っ子がどうのというよりそちらの方の影響が大きいのかもしれないですね。


…と、いろいろ自分語り的な部分も含めて書いてきたわけですが、何か全体をまとめられるようなこともなく、いつものようにグダグダで終わりたいのですが、こんな風に深読みしたり分析したりしたくなるのは、作品の中の人物が実際に生きてるように見えるからで、そこは優れた作家ならば誰もがクリアしてることなのかもしれないけれど、やはりすごいことなんだろうな、と思いました。それがなければ、ラスト近くの惣一郎さんの墓前で五代が語る場面で、あんなに感動するはずもないわけで。

*1:『めぞん』の前番組が『うる星やつら』で、それはドタバタSFコメディとして楽しんで見ていた流れで、引き続きその時間帯の番組を見ていた。とは言っても、ラムちゃんに特別な思い入れとかはないです。

*2:完全に余談ですが、高橋留美子の『らんま1/2』は俺の妹がハマって、そこまで積極的ではないにしろアニメも見ていたし、漫画も妹が友達に借りてきたものをさらに借りて読んだりもしてました。あれくらいなら、それほど抵抗はないというか。

*3:八神が出てくる前に見るのやめてるので、その辺は響子さんとの対比にはならなかった。

*4:YouTubeあたりに英語や中国語の字幕が付いたのがたくさん上がってる。

*5:この番組も昔見た記憶があることはあるんですよね。たぶん、再放送で。

*6:「あくまでも」のタイプミス