Against Me!『Transgender Dysphoria Blues』の歌詞を雑に日本語訳してみるよ。

Transgender Dysphoria Blues

Transgender Dysphoria Blues

 つい先日、Against Me!の新作『Transgender Dysphoria Blues』のCDを、発売から約2か月遅れで買ってきて、聴いたんですよ。それで、Twitterとか、って、呟いたんですが、いや、ほんと素晴らしいです。
 演奏は王道のアメリカンパンク。曲はカントリーやブルーズも取り入れた王道のロックンロール。へヴィなリフを用いた曲もあります。でも、たぶん、一番のポイントはやっぱり歌詞なんだろうな、と思って、俺の心に引っかかったところを中心に雑な日本語訳をしてみようか、と。
 その前に断っておかないといけないんですが、俺はこのバンドのいい聴き手では全然ないんですね。関心を持ったきっかけは、2年ほど前のボーカルのローラ・ジェーン・グレース(トム・ゲーブルから改名した直後)が性同一性障害をカミングアウトしたというニュース*1
 俺にとってそのニュースは驚きではありました。というのは、パンクロックシーンは、外側から見ると自由で開放的に見えるかもしれないんですが、内側に入ってみると、実はかなり閉鎖的でしかもマッチョイズムとの親和性も高いという面があるんです。これは、俺自身が過去に、アマチュアながらパンクバンドの一員として活動した経験から実感したことです。トランスジェンダーのバンドマンがいるということ自体は、別に不思議でも何でもないんですが、それがパンクバンドのシンガーで、なおかつカミングアウト後も活動を続けるというのは、非常に勇気ある決断だと感じました。
 実際、彼らの過去の曲の動画をYouTubeで視聴したときにも、ヘイトスピーチと言ってもいい罵倒や中傷コメントが書き込まれているのを目にしたし、それだけに、俺としてはローラとこのバンドをできるだけサポートしたいな、と思ったのは確かです。
 それで、とっくに完成していると言われていたこのアルバムがなかなかリリースされない状況は、心配ではあったんですが、ともかくアルバムはこうして世に出ました。興味を持った人は、是非聴いてみてほしいです。


 んじゃ、動画を貼り付けながら行きますかね。まー、意訳というか、あくまでも俺はこんな感じで解釈しましたよ、くらいに受け取ってもらえれば。途中を省略したり、順番が変わっちゃってるところもあるので、悪しからず。元の英語の歌詞はこの辺で。→ http://www.plyrics.com/a/againstme.html

 あなたの言うことははっきりしてる/女の子にしては広すぎる肩幅が忘れさせてはくれないんだ/自分の出自のことを
 あなたの体には女性器はないし/ぷりぷりしたヒップもない/そう明白だね/でも、私たちは自分が生まれついたような姿のままでは生きられない
 あなたは彼らにサマードレスの裾に形に気付いてほしい/他の女の子と同じように見てほしい/彼らはあなたをオカマとしてしか見ないし/まるで病気をうつされるのを恐れるかのように息を止めるんだ
 荒波が打ち寄せる海岸で/一日中過ごせたらよかったのに/あなたと二人きりで
("Transgender Dysphoria Blues")

↑アルバムの冒頭を飾る曲です。


ドレスアップしても行くべきところがない/あなたは一人で街を行く/次はこうして一人で行かなくてもよくなるようにと願いながら
今夜は誰が家まで送ってくれるだろう?/神様はトランスセクシュアルの心も祝福してくれる?/入れ違えられた魂の真の反逆者
生まれてもいないのに、死んだも同然/眠るときには銃を手放せない/死ぬまでそれを続けるんだ/静脈を切り裂いて、あなたは血まみれ
あなたは母親になるべきで/妻になるべきで/何年も前にここから離れて/違う人生を歩むべきだった
("True Trans Soul Rebel")

↑こちらは2曲目。


 体育会系の奴らと一緒に酔っ払って/オカマ連中を笑ってる/男の一人として/ペニスをしごきながら
 これが俺の人生/あいつらの一人だったんだ
 ビッチたちを見つめて/みんなとファックして/中出しする
 これが俺の人生/あいつらの一員だったんだ
 俺とお前は違うんだ/俺とお前は
("Drinking With The Jocks")

↑これは4曲目。
 どれも、トランスジェンダーの孤独や苦しみを描いた曲です。心と体を切り裂かれたような違和感を抱えながら、周囲の無理解に振り回され、そして、自分自身を偽って生きてきたという「物語」です。そして、これはローラ・ジェーン・グレースの個人的な体験や心情を描写ものであるのと同時に、「自分を抑圧するものに抗おうともがく」という多くの人に共通する普遍的なテーマを歌ったものでもあります。(そうした経験がないという人がもしいれば、その人はずば抜けた幸運の持ち主でしょう。)


 わたしはもうそんな風に話すのはいやだ/みんながそれが好きだなんて知りたくない/まるで何か義務があるとか/おまえに何かを背負わされてるかのように
 わたしをを黒く塗りつぶせ/おまえの家の壁に小便をひっかけて/太ったおまえの指から真鍮の指輪を切り取ってしまいたい/おまえはまるで権力者のように/わたしを黒く塗りつぶす
 わたしはもう世界をそんな風に見たくない/弱さや不安を感じたくない/おまえがわたしのポン引きで/わたしがおまえの売春婦であるかのように
("Black Me Out")

↑これがアルバムの最後の曲。
 最後まで歌詞を見ると、反戦や反権力といったメッセージを読み取ることができますし、それが自然かもしれません。けれども、俺にはこれは自分の中に染み付いてしまった偏見や過去の価値観からの決別を宣言しているようにも聞こえるんですね。自分を縛り付けて苦しめてきた、世間の偏見や差別から自由になって、それらと戦うという決意表明というか。月並みな言い方しかできませんが、俺は感動しました。
 俺は、このアルバムが、抑圧を感じる多くの人に寄り添ってくれる作品だと思います。身近にこうしたロールモデルが存在しないがゆえに苦しんでいる人たちに、これが届くことを願わずにはいられません。