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『めぞん一刻』感想

【第3回】めぞん一刻(高橋留美子)前編|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス)
【第4回】めぞん一刻(高橋留美子)中編|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス)
【第5回】めぞん一刻(高橋留美子)後編|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス)

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 そのリンク先のfinalventさんの書評を読んで、あらためて『めぞん一刻』をきちんと読んでみようと思い立って、書店で全巻まとめて買ってきましたよ、と。

めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)

めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)

 以下の感想は、この作品を全部読んでる人に読んでもらってる、という前提で書きます。
 まず、『めぞん一刻』を最初から最後まで通しで読んだのは(もっと言うと、完結した高橋留美子作品を通しで読んだのは)、これが初めて。
ただ、これは俺が小学生の時にテレビアニメ化されていて最初の頃は見ていた*1し、原作漫画の方も喫茶店か床屋かで断片的にパラパラ眺めることはあったので、おおまかに設定や登場人物などの内容は頭に入ってはいました。けれども、アニメはラブコメの「ラブ」の方に比重が傾いて、当時10〜11歳くらいの俺にとっては苦手な部類の作品になっていったので、途中で見なくなりました。まー、サンデー/スピリッツよりもジャンプが好きだったし、『めぞん』よりは『聖闘士星矢』とかの方が、ね、と。*2
 ということで、『めぞん』は俺にとってはずっと「俺にはあんまり関係ないカテゴリの作品」だったわけです。
 で、今回初めて通しで読んでみて、「あー、小学生の俺では、これは読んでも分からんかったわ」と思いましたね。中学生でもダメだったかな。俺は「なんで五代は、何を考えてるのかよく分からない管理人さんなんかより、そこそこかわいくて明らかに自分に好意を持ってくれているこずえちゃんで手を打たないのか」*3とか思ってた小学生だったので、恋愛の機微なんて全然わかってなかったわけです。ちなみに俺の奥さんは中学生の時に『めぞん』は読んでたと言ってましたが、まー、女子はなー。


 アニメの『めぞん』の響子さんは始終何か思いつめているというか、はっきり言って、いかにも「幸薄そうな女性」という印象でした。そもそも俺は「幸薄い感じの女性」というのが苦手なんですよね。それはともかく。ところが、漫画の方は、そういう雰囲気も残しつつ、響子さんかなり活発だし元気じゃないか、という。もちろん最愛の人を失った悲しみとか影とかは持ってるわけですが、俺が思っていたよりも普通の人だったな、と。
 で、アニメの『めぞん』もネット上にはごろごろ転がってて*4、それこそ25年ぶりくらいで見直してみると、やっぱりアニメの方は響子さんのキャラクターをだいぶセーブしてるな、と感じました。静と動の「静」の方寄りの描写になってる。
 だからというか、アニメよりも漫画の方が個人的な好みには合いました。


 漫画の内容についてですが、今回はfinalventさんの書評をあらかじめ頭に入れたうえで読んでいるので、どうしてもその解釈の答え合わせをするような読み方になってしまいました。そのような読み方をしても、というか、話の中で起こる出来事とかストーリーの流れが分かっていても、かなり面白い読書体験ではありましたが。この当時の高橋留美子というのはほんとに面白かったんだなー、と。
 それで、概ねfinalventさんの解釈については得心がいったのですが、それだけだと俺がわざわざ感想を書く意味がないので、もしこれに付け加えられるものがあるとしたら、何かな、と。
 『めぞん』を読みながら、俺は漠然と「朱美さんっていい女だよな」と感じていたのですが、その「いい女」ってどういうことなんだろうか、と。俺がこういうさばけた感じでなおかつエロい雰囲気の人が好きだ、ということもあるんでしょうけど。けど、終盤の五代と響子さんの大げんか(というか、響子さんが一方的に切れる)の時の、朱美さんが響子さんに放った台詞がよかった。

ろくに手も握らせない男のことで、泣くわわめくわ、どうなってんの。
あんたみたいな面倒くさい女から男とるほど、あたし物好きじゃないわよ。バカ。

いや、これ、読者の気持ちを完璧に代弁してくれてるよな、と。読者というか俺の気持ちを。
そもそもこのケンカの原因には朱美さんにも責任の一端があるんですが、こういうことをさらっと言ってしまえるところには痺れるよね、と。これは朱美さんなりの優しさですよ。「あんた五代くんのこと、好きなんでしょ。もっと素直になりなさいよ」という意味ですからね。似たようなことを考える人は他にもたくさんいるようで、「ろくに手も握らせない」でネット検索してみるだけで、いろいろ出てきます。
そうなんだよな、響子さんってめんどくさい人なんだよな。それなりに事情があるとはいえ、きちんと付き合ってもいない男にヤキモチ焼いたり、相手の話も聞かずに冷たくしたり、いったいこの人なんなんだろ、と。
一方、朱美さんは男運はかなり悪い。それこそ、ラブホテルで酔いつぶれて男に逃げられちゃうくらい、男運が悪い。けれども、響子さんみたいな意味でのめんどくささはない。それが「いい女」かというと、そういう訳じゃないんだけど、昔「BSマンガ夜話」という番組で、TARAKOさんが

朱美さんて、もしかしたら五代が好きだったんじゃないかなって(同意の声多数)。でもそれをひた隠しにして、いい女じゃないですか。

「BSマンガ夜話」から

と発言してたということを今回知って*5、ああ、そういう解釈もありか、と。ちなみにアニメの方では、そう解釈できるような脚色が結構されてるように思います。
 その辺を確認したくて、もう一度この作品を頭から読み直してみて、朱美さんが五代のことを好きだった可能性はそんなにないかなとは思ったのですが、五代のことを弟みたいに感じていた、という意味の台詞は出てくるので、その辺は響子さんが五代に対して最初は「手のかかる弟ができた気分」と感じていたという辺りとかぶってはいます。もしかしたら、響子さんがいなければ、五代と朱美さんがどうかなっていた可能性もゼロではないかな、くらいのことは言ってもいいかもしれない。あと、少なくとも朱美さんは五代がそれなりにいい男に成長してきているのをきちんと見抜いていたんじゃないか、という気もします。一の瀬さんもそうなんだけど、終わりの方は完全に響子さんとの関係について五代を応援するモードになってる。
 朱美さんは自分自身のことでは男運は悪いかもしれないけれど、見る目がないわけじゃない。そして、上に引用したような厳しい台詞を吐いてしまえるやさしさもある。これは俺から見るとかなり「いい女」だし、スナック茶々丸のマスターもそう思ったんでしょう。


 さて、2回読んでみて、俺はやっぱり響子さんが良く分からないんですよね。もちろん、頭では理解できてるつもりなんだけど。そこで、奥さんとちょっと話し合ってみたところ、

めぞん一刻』の2周目を読み終わって、ますます朱美さんの「ろくに手も握らせない男のことで、泣くわわめくわ、どうなってんの」という台詞がしみるなー、ほんとどうなってんの、と思うという話を奥さんにしてみたら、「響子さん一人っ子でしょ。すごく分かりやすい」と言われた。な、なるほど。

https://twitter.com/nijuusannmiri/status/262517213691518976

んで、

んで、俺と奥さんの共通の知人の名前をあげて、「響子さん見てると、○○子のことを思い出す。彼女なりの常識があるんだけど、あくまでの*6彼女にとっての常識でしかない」とも言われ、あー確かに、と納得させられた。一人っ子型の性格かどうかは別にして、そういう人って実在するんだな、と。

https://twitter.com/nijuusannmiri/status/262518286544154625

という話になったわけですが、これで多少腑に落ちたところはあります。
一人っ子というか一人娘の響子さん、弟の五代(姉がいる)、兄の三鷹さん(妹がいる)、姉のこずえちゃん(弟がいる)、一人娘の八神いぶき、朱美さんは不明、と見ていくと何となく分からないでもないな、と。
こういう兄弟姉妹がいるかいないかで性格が決まるかのような話は、世間ではよくあるものなんですが、科学的な検証に耐えうるようなことでも実はなさそうなんで、そこを前面に押し出した解釈はどうかとも思います。だけど、この作品の中では、その辺も含めたステレオタイプなキャラ付けがされてると見てもいいのかもしれません。
あと、もう少し注意深く響子さんの両親や五代の親族なんかを見ると、それぞれの性格がこういう風に形成されているのもある程度理解できる。実際、響子さんとその母親の律子さんは、性格もかなり似ています。一人っ子がどうのというよりそちらの方の影響が大きいのかもしれないですね。


…と、いろいろ自分語り的な部分も含めて書いてきたわけですが、何か全体をまとめられるようなこともなく、いつものようにグダグダで終わりたいのですが、こんな風に深読みしたり分析したりしたくなるのは、作品の中の人物が実際に生きてるように見えるからで、そこは優れた作家ならば誰もがクリアしてることなのかもしれないけれど、やはりすごいことなんだろうな、と思いました。それがなければ、ラスト近くの惣一郎さんの墓前で五代が語る場面で、あんなに感動するはずもないわけで。

*1:『めぞん』の前番組が『うる星やつら』で、それはドタバタSFコメディとして楽しんで見ていた流れで、引き続きその時間帯の番組を見ていた。とは言っても、ラムちゃんに特別な思い入れとかはないです。

*2:完全に余談ですが、高橋留美子の『らんま1/2』は俺の妹がハマって、そこまで積極的ではないにしろアニメも見ていたし、漫画も妹が友達に借りてきたものをさらに借りて読んだりもしてました。あれくらいなら、それほど抵抗はないというか。

*3:八神が出てくる前に見るのやめてるので、その辺は響子さんとの対比にはならなかった。

*4:YouTubeあたりに英語や中国語の字幕が付いたのがたくさん上がってる。

*5:この番組も昔見た記憶があることはあるんですよね。たぶん、再放送で。

*6:「あくまでも」のタイプミス