「韓国の教科書では百済がチート国家になってる」という画像について少し調べたら、『大朝鮮帝国史』という歴史本のイラストだったぽい。

あー、気付いたら1年近く放棄していたはてなダイアリーTwitterに慣れすぎて長い文章が書けなくなってるという危惧もありますが、とりあえず書いてみます。
といっても、たいしたネタではありませんが。というか、普段ならスルーする話題なのですが、魔がさして。
ことの始まりは、昨晩、Twitterでリアル友人でもあるCarpe Diem君(@loveandzero)から、こんなリプライをもらったことから。↓

@nijuusannmiri RT @loveandzero: これ本当なの?奈良百済帝国(倭国)が存在したとは!韓国って教科書が、はんぱないわ。倭国の海外領土が朝鮮半島以外にあったとはな。 http://twitpic.com/92cyc4

https://twitter.com/#!/loveandzero/status/185004758803816448

このリプライをもらったときには、もう寝てしまっていたので、これに気付いたのは今朝のことなのですが、わざわざ自分のツイートをRTしてまで俺に知らせてきたってことは、「こんなの見つけたけど、どう思う?」ということだと解釈しました。
それで、リンク先のtwitpicの画像なのですが、これ。↓

いや、まー、コメントに困るわ、と。日本列島の関東北陸以西が「奈良百済」という初耳な名前の国になっちゃってる。これはちょっとないわー、というのが第一印象。
しかし、「こんなのが韓国の教科書にほんとに載ってるの? いくら何でもそれはないんじゃね?」とも思いました。*1 これは少し調べた方がいいのでは、と。
そこで、まずはキーワード「奈良百済」で検索したら、まず、こんなのが引っ掛かりましたよ。↓

『大朝鮮帝国史』(だいちょうせんていこくし)とは、朝鮮民族の数千年に及ぶ歴史を著した民族物語絵巻。全体的に荒唐無稽な内容である。1994年に3巻セットが韓国で出版され、1995年に第4巻と第5巻が出版された。著者は金珊瑚(キム・サノ)。

大朝鮮帝国史 - Wikipedia

へー、「民族物語絵巻」ね。どうも、『大朝鮮帝国史』というイラストや図版が豊富な歴史本の一種みたいです。そこに「奈良百済」という言葉が出てくるらしい。でも、「全体的に荒唐無稽な内容である」という評価というか決めつけはWikipedia的にはどうなんですかね。誰がそう言ってるのか。(一応、あとの方で野平俊水氏(水野俊平氏ペンネームらしいですが)の評価が引用されてはいますが。)
それはともかく、このWikipediaの記述によると、その『大朝鮮帝国史』の中に、

広開土王の侵攻により、百済王は日本に亡命した。この百済王が応神天皇であり、「奈良百済」を建国した。旧領は「古莫那羅百済」と呼ばれた。

という内容が含まれているらしい。なかなか斬新な説ですね、と。
というところで、さっきの「奈良百済」の検索結果に戻って、もう少し下の方を見てみると、こんなページもありました。↓

大朝鮮帝国史

この本について、Wikipediaよりもさらに詳しい解説というか要約らしきものがあります。*2
なかなか面白いことが書いてあるのですが、たしかに荒唐無稽というかトンデモというか、まー、そういう感想です。(細部にはちょっと興味深いことも書いてありそうなのですが、本論とはズレていく一方なので触れないでおきます。)
で、こちらのページを下にスクロールしていくと…

はい、ありましたよ。これ、文脈からすると、この本の挿絵(というかイラストというか図版というか)なのでしょうが、上のtwitpicの画像と全く同じですよね? twitpicの画像自体がこのサイトからの引用であるとは断定できませんが、その疑いは濃厚かな、と。
しかし、これが「韓国の教科書では百済がチート国家になってる、奈良百済ってなんだwwww」というコメント付きでツイートされて、RTも数多くされてるみたいなんですよね。*3 真に受けてる人も結構いそうです。
でも、ここまで見てきたように、この画像は韓国で出版された歴史本には載っているようですが、それは少なくとも韓国の教科書ではないですよね、と。
この歴史本自体の韓国での評価は分かりませんが、たぶんあちらでもトンデモ扱いなんじゃないかなー、という気がします。というか、これがほんとに韓国の教科書に載っているなら、逆にもっと大騒ぎになっていいと思うんですけどね。週刊誌とか右寄りの雑誌なんかで取り上げるでしょ、と。それが(今後も含めて)なければ、やっぱりガセでした、ということでいいかと思います。
そこで、Carpe Diem君にはこのように返信しときました。↓

@loveandzero とりあえず、それ、教科書じゃないみたいだよ。 http://nippon-senmon.tripod.com/hantou/rekishi/kimu_chousenshi.html どこの国でもありそうなトンデモ歴史本の類じゃないかな?

まー、この手の偽史というかトンデモ歴史本の類というのは、日本にも昔からあって*4、俺はそういうのもけっして嫌いではないのですが、それが「教科書」というような言葉をくっつけて(要するにデマ/ガセネタとして)流布されるのは感心しませんね。
「教科書」に載っているということは、その内容がそれなりに通説であるとその国では認識されているよ、ということを示しているわけで、この件の場合は「韓国って、こんな変な説を学校で教えてるなんて、ろくでもない国だな」という印象を与えてるわけですよね。
正しい情報に基づいて「ろくでもない」と判断するならともかく、ガセネタでそう判断するのはダメだと思いますよ、と。


あ、今回はCarpe Diem君が何だか思慮に欠ける人物であるかのような印象を与えるエントリになってしまいましたが、リアルの彼はそんなことはなく、むしろ物事の多様性を見ようとするタイプなんですよ。Twitterだと俺もたまにやってしまうのですが、筆が滑ってしまうというか、ミスしてしまうことがあります。そういうことなので、この件で彼の内心を忖度して、差別的思考の持ち主だとか言って糾弾しないでくださいね。問題は誰かが最初にガセ情報を流したことなので、そういうことでよろしくお願いします。

*1:教科書といっても、小中高大その他のどの学校の教科書かも分かりませんし。

*2:こちらは「「日本専門」情報機関」という名のサイトの中で、「偽史」の一つとして紹介しているページのようです。このサイト自体はいわゆる嫌韓傾向の強いサイトということになりそうですが、それはここではツッコミません。

*3:この記事を書いている時点で、185の関連ツイートがあるようです。

*4:例えばこういうのとか。→ トンデモ日本史とは