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在特会の「暴力犯罪」はむしろ保守主義の観点から批判されるべきでは。

日記

少し前のことだが、なかなか書ききれないでいた。
→『はてなブックマーク - YouTube - 在日特権を許さない市民の会 09年9月27日in秋葉原
全く胸糞悪くなる動画だ。
この動画と関連するエントリをいくつか眺めてみて思ったことをちょっと書いてみる。
ここで行われたことは単なる「犯罪」である、ということが俺の動画を見た感想。最悪の「暴力犯罪」である。
この暴力犯罪のうち、「暴力」という側面に焦点を合わせれば、在特会(在日特権を許さない市民の会)が持っている「排外主義」そのものがそもそも暴力であり、この「事件」はその暴力が直接的なものとして表出したものに過ぎない、という指摘*1は俺はよく理解できるし、同意する。全くその通りだと思う。
「排外主義それ自体が暴力である」ということには異論がない。
しかし、「犯罪」という側面に焦点を当てればどうか。残念ながらというべきか、今の日本では「排外主義それ自体が犯罪である」とは言えない。排外主義を主張することは「暴力」ではあっても「犯罪」ではない、ということだ。そして、ここで行われたことはどこからどう見ても犯罪である。多数による少数(1人)に対する暴行であり、被害者が傷を負っていれば傷害だ。暴行も傷害も親告罪ではない*2
この「犯罪」が刑事事件として争われるとしたら、そこで裁かれるのは「排外主義」ではなく、やはり「直接的/物理的な暴力」だろう。


俺自身は自分を左翼であると規定していないが、赤旗を購読しているような家庭で育ったこともあり、左翼的な主張に割と親和的だ*3。だが、この件に関しては、左翼的な思想よりも、むしろ保守主義の観点から批判すべきではないかと考える。
保守主義というのは、自由よりは安全を、変革よりは安定を求める思想であろうと思う。この思想は、先鋭化させていけば、「日本の治安を脅かす外国人は排除すべき」とか「外国人に参政権を与えるなどもってのほか」みたいな主張に辿り着くものではある。だが、「穏健な」保守主義者の多くはそれに近い考えを持っていたとしても、直接的な暴力(というか犯罪)に訴えるようなことはしない。というより、直接的暴力それ自体を「悪」として排除しようとする。それは、自分達の生活を脅かすものだからだ。
言い方を変えれば、保守主義者にとっては「排外主義それ自体が暴力」かどうかは問題ではなく、直接的な暴力(が自分たちの生活を脅かすかどうかということ)が問題なのだ。
だから、この件は「犯罪が行われたのだから、警察などにより取り締まられるべきだ」というのが普通の保守主義者の反応だろうと思う。たとえ「排外主義それ自体が暴力である」という主張に対して賛成でなかったとしても、それはあの日に秋葉原で行われた「暴力犯罪」を容認することになるかといえば、全然そんなことはない、ということ。
だから、保守主義者を自認する方々は、在特会の「行為」をもっと批判してほしい。


思うに、排外主義を問題にする人たちは、このような考えによってあの「暴力犯罪」の犯罪性のみを問題にすることで、犯罪の背景にある排外主義の問題を曖昧にしてしまうことを危惧しているんだろう。確かにそういう問題はある。「普通の保守主義者」というのはこの国の市民の多くを指す言葉だと思うが、普通の保守主義者というのは、たいていソフトでライトでカジュアルで素朴な排外主義者でもある、この国では。だから、問題は在特会という「特殊な」団体だけに限定されるものではない。俺とあなたの問題だ。
そういう人たちに向かって「排外主義それ自体が暴力」と指摘することは、それはそれで意味のあることだと思う。だがそれは、同時に「いや、こちらから見たら、外国人に参政権与えるとか、不法入国の外国人が日本に住み続けてる方が脅威だよ」みたいな反論を招きやすいものでもあるだろう(俺はこの反論に全く賛成しないが)。そこで議論が平行線を辿ることは目に見えている。
そうして平行線を辿ることによって、本来双方の一致点であったはずの「この事件は暴力犯罪である」という問題が置き去りにされ、うやむやになってしまうことを、俺は恐れる。


というか、この「事件」が刑事事件としてきちんと立件され、加害者が検挙され、裁判にかけられれば*4、正直言って議論がどうなろうがさして問題ではないようにも思う。在特会が昔の新左翼団体みたいに反体制のヒロイックな幻想に溺れてさらに過激な方向に走る可能性もなくはないが、そうなれば、逆に社会から見放されるのは在特会の方だ。
もっと言えば、民事訴訟も起こして治療費や慰謝料などをしっかり賠償させればなおいい。
もちろん、被害者の方にそうしろと強制できるはずもないが、どうもそういう風にはならなさそうなのは、残念に思う。
ここで、この暴力犯罪の問題がうやむやになってしまえば、被害者の方と主張を同じくする別の人が、彼と同じことをしようとするときに躊躇してしまう材料を一つ増やしてしまうことになる、と俺は思う。たかだか、紙切れ一枚掲げるだけなのに。

追記(2009/10/12)

ブクマコメントへの応答をちょっと。→はてなブックマーク - 在特会の「暴力犯罪」はむしろ保守主義の観点から批判されるべきでは。 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は

b:id:genovese33 デモ, 犯罪 例の事件は保守の側こそ批判するべきという話だが、最終パラグラフでは、刑事立件すべき、という結論で落ち着く。結論には同意。 2009/10/10

結論さえ同意していただければ、幸いです。

b:id:toled 私服警官に「僕が被害届だすとかということと関係なく警察の仕事あるんじゃないですか」とか「傷害罪だから親告罪うんぬんかんぬん」ってゆったけど、「裁判っていうのはね、ごにょごにょ」とか言われた。 2009/10/11 

被害に遭われたご本人からコメントをいただきました。ありがとうございます。それと、つまらない文章でお手を煩わせて申し訳ありません。
当事者のお書きになられたことで、特に疑う理由もありませんので、これは事実なのだと考えますが、だとすると、警察に対して失望せざるを得ない内容ですね。下の注に「混乱する事態の収拾を最優先させたのであれば、現行犯逮捕をしなかったとしても不思議ではないが」と書きましたが、不思議ではないけれど落胆はします。ただ、警察(あるいは検察)の対場に立って考えてみれば、「被害届のない暴行(傷害)事件を立件しても公判が維持できないよ」というのも理解はできます。理解はできますが、納得はできません。現場を複数の警察官が目撃してるわけですし。何より、警察の権力(含む暴力)は、「市民の安全を守るため」に与えられたはずのものですからね、建前は。
ならば、被害届を出した方がよいのでは、というのは俺個人としては思いますが、個人的な知己もなく部外者でしかない者が、web上とは言え「そうしろ」などと言っていいことではありませんね。

b:id:triggerhappysundaymorning 最悪の暴力犯罪って程ではないんじゃないか.寧ろ素人集団っぽさ丸出しだったりキモオタ中心なのが漏れ漏れだったり.右曲がり団体として最も低脳とか言えるかも知れないけど. 2009/10/11

「最悪」かどうかは、主観の問題なのでなんとも。俺には「最悪の部類」だと感じられました。「素人集団っぽさ丸出しだったりキモオタ中心なのが漏れ漏れ」というのは、「キモオタ」かどうかはともかく、「ま、そうかな」と思います。中にはアクティブな右翼の方もいらっしゃったような感じですが、大方は喧嘩もしたことがなさそうな人が多そうでしたね。でも、多勢に無勢ですからね。逆に、素人だから余計に怖いとも言えます。加減とかできないでしょうから。

b:id:Midas 在特会がどの様な人々か、まだ誤解が多い。マイノリティ、未開部族、「野蛮」人ほど排外主義。絶滅間近な先住民族ほどヨソ者を受け付けない。彼らは保守というより取り残された精神的な僻地。日本は先進国ではない 2009/10/11

「彼らは保守というより取り残された精神的な僻地」という指摘にはちょっと考えさせられます。「極右」というのはだいたいそんなものかもしれませんね。本人たちは、自分たちが「極右」だとは露ほども思ってないんでしょうけど。(だからこそ、俺は保守が彼らを批判すべきと思うわけです。)

b:id:kadotanimitsuru 在特会, 暴力 には暴力で対抗するしかなくその暴力は国家に独占させるのが建前だから保守主義と限らず治安維持の問題。なので「平和」を望む全ての人にとり問題。排外主義固有の問題にすり替えようとしてるはてサのは論外として。 2009/10/11

保守主義と限らず治安維持の問題。なので「平和」を望む全ての人にとり問題」というのは、その通りだと思います。ただ、左翼側からの批判ばかりが目立っているように感じられたので、あえて「保守主義」というキーワードを前面に押し出した、という意図もあります。
あと、「排外主義固有の問題にすり替えようとしてる」ということなんですが、たぶん排外主義を問題にしている人たちは「すり替えよう」とはしてないと思うんですよ。真摯にこの事件について考えた結果の発言なんだろうとは思うんですね。あちらから見たら、「排外主義の問題と今回の『犯罪』については、分けて考えようぜ」と言う方が、よほど「すり替え」に見えるんじゃないでしょうか。俺が左翼の人の代弁をすることなんてできないし、そんなおかしな話はないわけですけど。でも、どちらも「すり替え」なんてしてないんですよ。で、結果として議論が平行線を辿ってしまっているということなんじゃないでしょうか。
繰り返しになりますが、俺は、「この事件は暴力犯罪である」という、よほど加害者側に肩入れしている人でなければ、誰もが同意できる一致点があるにもかかわらず、それが曖昧にというかうやむやになってしまうことを危惧しています。相違点も重要でしょうが、一致点があることを優先すべきではないか、ということですね。

*1:例えば→『排外主義それ自体が暴力です - モジモジ君のブログ。みたいな。

*2:実際問題としては、被害届が出されなければ立件は難しいだろうが。

*3:要するに親が左翼だったから、俺も左翼的な考え方をしがち、という考えようによっちゃ非常に非左翼的なことでもある。が、それは別の話。

*4:この辺のことが動画からだけではよく分からない。警察はあそこで暴行を働いた人物を逮捕することもできたはずだが、実際にはどうしたのだろうか。混乱する事態の収拾を最優先させたのであれば、現行犯逮捕をしなかったとしても不思議ではないが。だが、警察もこの件を放置したままでは、「警察は市民の安全を守れない」ということになってしまって、まずいと思うのだが。