貧困ビジネスの一例。というか、毎日新聞のスクープなんじゃね、これ。

数日前から毎日新聞が「無料低額宿泊所」を運営する事業者についての記事を掲載していたらしいことに、今日、気が付きました。ちょっとメモ的に。長くなるかも。
2009/9/22→『http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090922ddm001040002000c.html

生活保護受給者から利用料を集めて運営されている大手事業者「FIS」の「無料低額宿泊所」が、施設の家賃や職員の人件費などのほかに「業務委託料」名目の使途不明の支出を多額計上していることが分かった。東京などの4施設の06〜07年度分だけで2億5000万円を超えているが、委託先とされる会社の経営実態は明らかにされておらず、役員もFIS幹部が兼務している。生活保護費が入所者の生活や自立支援と無関係に使われている疑いがあり、一部自治体が社会福祉法に基づく調査を始めたが、FIS側は具体的説明を拒否している。

FISは、東京都や埼玉、千葉、神奈川、愛知県内で土地建物を借り上げ、18宿泊所(総定員約1900人)を運営する任意団体。入所者が毎月受給する約12万円の保護費から約9万円の利用料を集めている。NPO法人などが運営する多くの宿泊所では、利用料の大半が給食の食材費や職員の人件費、施設賃貸料に充てられる。だが、東京都と千葉県でFISが運営する4施設が所管自治体に提出した収支計算書には、これらの経費とは別に、支出全体の3割前後に上る「業務委託料」が計上されていた

(中略)

委託先についてFISは、事務受託や飲食店経営を目的とする有限会社「エリアプロデュース」と結んだとする業務委託契約書を千葉市に提出しているが、エ社の役員はFISの代表や幹部が兼務、所在地も東京都北区にあったFISの事務所と同じだった

委託先会社の収支は一切報告されておらず、幹部らの報酬額も不明なため、千葉市社会福祉法に基づく調査に乗り出したが、FISは「運営や事務等の一部を委託している。委託先は契約時の取り決めで開示できない」と具体的な説明を拒否。船橋市の問い合わせには回答を拒んだ。横浜市や埼玉県は「権限がないので調査できない」としている。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090922ddm001040002000c.html

ちなみに→『無料低額宿泊所 - Wikipedia

都道府県知事への届け出により開設できる。設置者は民間のNPO団体が多いが、個人でも開設できる。バックに企業がついていることが多い。サービス形態としては、「宿所の提供のみ」、「宿所と食事を提供」、「宿所と食事に加え入所者への相談対応や就労指導」がある。入居者のほとんどは生活保護を受給しており、生活保護受給が前提となっている施設が多い。そのため、利用料(家賃)は施設の規模・設備にかかわらず、生活保護における住宅扶助の最上限額に設定されている施設がほとんどである。近年、東京都内の宿泊所が急増し、平成18年12月1日時点の宿泊所設置数は168ヶ所、定員数は5,174名となっている。野宿生活者(ホームレス)に生活保護を申請させて入所させているケースが多い。

無料低額宿泊所 - Wikipedia

さらに、2009/9/22→『http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090922ddm041040041000c.html

埼玉県内に住む元ホームレスの60代男性は、06年に県内の宿泊所に入所した。毎月受け取る生活保護費は約12万円。利用料として9万円を支払えば、手元には3万円しか残らない。入所者同士で「なぜ、こんなに高いのか」とささやき合ったという。

(中略)

専門家の間にも疑問の声がある。野宿者らの自立支援アパートを運営するNPO法人「ほっとポット」(さいたま市)の藤田孝典代表理事は、「家賃以外に食材費として月1万5000円、人件費として2万円程度しかかからず、入居者の手元に5万〜7万円は残せる。ほかに必要な経費はほとんどないはず」と首をひねった。

路上生活者らを受け入れる地域生活支援ホームを運営しているNPO「スープの会」(東京都新宿区)では、生活保護費のうち家賃分として支給される「住宅扶助」(約7万円)だけを徴収している。世話人の後藤浩二さんは「利用料を徴収する以上、きちんと性質や目的を説明する必要がある」と指摘した。

元入所者の相談に応じたこともある自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠事務局長は、FISについて「自立を支援せず、施設内のトラブルも解決せず、入所者を放置している」と話す。施設になじめずに退所した末、生活保護を打ち切られ、路上生活に戻ってしまう人もいるという。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090922ddm041040041000c.html

典型的な「貧困ビジネス」ですね。というか、貧困ビジネスって、貧困者からさらに金をむしり取るイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、それだけじゃなくて、むしり取る金の出どころはどこかと言えば、この場合は生活保護費なんですよね。つまり元は税金です。というわけで、あなたが納税者であれば、この問題の立派な当事者であるとも言えますね。
俺は貧困ビジネスそのものが悪だとは思いません。12万円の生活保護費のうち9万円取られると聞けば「ぼったくりじゃねーか」と思うのが普通でしょうが、これがいくらなら適正なのかというのは結構微妙な問題です。7万円ならあるいは6万円ならいいのか、いや、金額の多寡が問題なのか、そういう問題でもないだろうと思うのです。これはこれで、ホームレスなどの人たちに屋根壁付きの生活の場を「とりあえず」与える場には、少なくともなっているわけですし。
あと、こういう「施設」を放置してきた自治体の責任というのもあって、毎日の記事の中にも指摘されています。↓

一方で、自治体側の姿勢にも疑問が残る。社会福祉法は「所管自治体は運営者の帳簿や書類を検査し、経営状況を調査することができる」と規定しているが、FISの宿泊所を別々に所管する都県や政令市、中核市は、毎日新聞が指摘するまで不自然な業務委託料を見逃してきた。千葉市は法に基づく調査に乗り出したが、他の自治体は「権限がない」という理由で見送った。

こうした消極的とも言える対応の背景に、自治体と施設の「なれ合い」を指摘する福祉関係者もいる。人手と予算の不足に悩む自治体が、大勢の路上生活者らを宿泊所に引き受けてもらう代わりに、運営には口出ししない「丸投げ」の構図だ。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090922ddm041040041000c.html

毎日新聞が指摘するまで不自然な業務委託料を見逃してきた」かどうかはともかく、「馴れ合い」というか持ちつ持たれつの関係であったことは否定できないんじゃないでしょうかね。ただ、だからと言って自治体(行政)を責めるばっかりでもしょうがないわけで、背景にはこうした問題に対する世間の無関心があると、俺は考えます。「ホームレスを何とかしろ」と言うだけの世間に対して手も金も回らない自治体にとって、この手の「施設」は非常に便利でしょうからね。



でも、ここで問題になっているのはそういうことではないんです。
上の引用で強調した「東京都と千葉県でFISが運営する4施設が所管自治体に提出した収支計算書には、これらの経費とは別に、支出全体の3割前後に上る「業務委託料」が計上されていた」というのがその問題。
業務委託料って何?と言う話。そしてその委託先の「エ社の役員はFISの代表や幹部が兼務、所在地も東京都北区にあったFISの事務所と同じだった」という話。
これにはさらに続きがあり、2009/9/23→『http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090923ddm041040003000c.html

生活保護受給者向けの無料低額宿泊所運営団体「FIS」が多額の使途不明支出を計上していた問題で、千葉市内の宿泊所に併設されている別団体名義の2施設の収支にも、使途が分からない「業務委託料」が計上されていたことが分かった。支出先とされる会社はFISの委託先とは異なる有限会社だが、FIS代表が役員を兼務。06〜07年度分で約5200万円が計上されていた。【無料低額宿泊所取材班】

 この宿泊所は、千葉市稲毛区にあるFISの宿泊所「FIS稲毛」(定員38人)の敷地内に併設されている「稲毛厚銀舎」(定員50人)と「大桑稲毛寮」(定員45人)。千葉市に提出された収支計算書によると、2施設は施設賃借料や人件費、食材費の他に、毎月100万円を超える業務委託料を計上していた。委託料は支出全体の約3割を占め、06年度(9カ月分)と07年度分を合わせ、厚銀舎は2743万円、大桑は2469万円に上る。

 稲毛厚銀舎を運営するNPO法人「厚銀舎」は、05年4月にFIS幹部らが理事となって「エフアイエス」の名称で設立された。大桑稲毛寮は、FISの取引先関係者が代表を務め、茨城県内で宿泊所を運営する任意団体「大桑」が設立した。

はて、「厚銀舎」ってどこかで見たような名前だなと思ってググッたら→『http://www.kaigo-110.biz/info/new/post-560.html

市に訴え出た元入所者の男性によると、厚銀舎は男性の同意を得ないまま銀行口座を開設し、通帳やキャッシュカードを管理。生活保護費約12万円から9万円を施設使用料などとして差し引き、3万円を男性に渡していた。入所から2年4カ月後の今年3月、通帳などの預かり証を渡され、署名・押印を求められたという。

市地域保健福祉課は「生活保護費は受給者自身が管理するのが原則」としている。

この記事は毎日新聞の記事の転載のようです。そういえばこんな内容の記事をブクマしてた気がする。
あった。→はてなブックマーク - ニッポン密着:千葉・無料低額宿泊所 「鍵なき独房」行政黙認 窓目隠し、会話なく - 毎日jp(毎日新聞)

nijuusannmiri ホームレス, 社会, 生活保護, 行政 運営団体の背景洗ってみろよ。しても報道できないかもしれないが。 2009/06/01

はてなブックマーク - ニッポン密着:千葉・無料低額宿泊所 「鍵なき独房」行政黙認 窓目隠し、会話なく - 毎日jp(毎日新聞)

うわ、何コメントしてんだ、俺(笑)。
ま、俺が書いたコメントに反応したわけじゃないでしょうけど、毎日新聞運営団体の背景を洗ってみたようですね。
ついでに、2009/9/24→『http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090924ddm041040014000c.html

生活保護受給者向けに無料低額宿泊所を運営し、多額の使途不明支出を計上していた「FIS」を巡り、名古屋市昭和区の宿泊所「FIS名古屋」(定員162人)の06年度から3年間の無断退所者の割合が退所者全体の6割を超えていることが分かった。この間、転居して自立した人は3割にも満たず、専門家から運営に対する疑問の声が出ている。

FIS名古屋は03年3月に開設された宿泊所。施設側が市に提出した報告書によると、施設の入所者の出入りは激しく、06〜08年度には432人が退所した。このうち269人(62%)が無断退所で、施設側はその後の退所者の動向を把握していなかった。行方が分からない無断退所者の生活保護は打ち切られた。1カ月に10人以上の無断退所者が出た月も3年間で10回あり、無断退所率は06年度の55%から08年度には71%に増加していた。

これに対し、住み込みの就労先が見つかって退所した人は80人(19%)▽退寮処分や死亡した人などは43人(10%)▽アパートなどに転居して自立した人は40人(9%)だった。

市内で9施設を運営しているNPOの宿泊所の06〜08年度の無断退所率は40%とFISより低く、年度別の推移も47%から33%に減っていた。全国最大規模の事業者のNPO法人も、全宿泊所を通じた07年の無断退所率は37%だという。名古屋市保護課は「FISの無断退所率が高い理由は不明だが、施設になじめない人が多いようだ」としている。

FISを巡っては、路上生活者支援の専門家から「就労支援が不十分で、施設から逃げ出す人も多い」との指摘が出ている。FISは別の自治体に提出した資料で「名古屋は地域企業とのパイプがないというハンディがある」と説明。「就職先を告げずに退所したり、就職せずにホームレスになる人もいる」と記述している。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090924ddm041040014000c.html

勢いあまって全文引用になってしまったけど、要するに「FISという団体の運営する施設そのものが、既にとんでもないよ」ということが言いたい記事になっている。それはそれでもちろん大きな問題なので、改善を求めたいところです。
しかし、個人的にというか野次馬的には、この使途不明とされる「業務委託料」の流れた先というのがとてもとても気になりますね。
この後どんな情報が出て来るか、非常に楽しみです。毎日新聞には是非頑張ってほしい。まさか、これで弾切れってことはないですよね?

追記

続報。2009/9/25→http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090925ddm041040022000c.html

生活保護受給者向けの無料低額宿泊所運営団体「FIS」が多額の使途不明支出を計上していた問題で、厚生労働省は24日、東京都や千葉市などの関係自治体から事実関係を聴取する実態調査を始めた。FISの業務内容を把握したうえで、03年につくった宿泊所の運用ガイドラインについて見直しを検討する。

 東京都と千葉市にあるFISの4カ所の宿泊所は、06〜07年度に「業務委託料」名目で計2億5000万円超の使途不明の支出を計上していたことが毎日新聞の調べで分かっている。厚労省は同様の宿泊所がある名古屋市横浜市、埼玉県にも事情を聴く方針。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090925ddm041040022000c.html

国が動いたことで、仮にこれで終了しても毎日新聞的にはOKかな。さてさて。

追記2

さらに続報。土日は休みだったみたい。2009/9/28→http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090928k0000m040125000c.html

生活保護受給者向けの無料低額宿泊所運営団体「FIS」が多額の使途不明支出を計上していた問題で、入所者の生活保護費から徴収する「家賃」が施設の土地建物の所有者(大家)に支払われる賃料の2〜3倍を超える宿泊所が複数あることが分かった。地元自治体への提出資料でFIS側は「賃料は大家が定めており、近隣アパートより安い」としているが、徴収額との差については説明していない。【無料低額宿泊所取材班】

FISは、賃料を支払って大家から土地建物を借り、18カ所で宿泊所を運営している。大半の施設は常時ほぼ満室状態で居室スペースは3〜4畳しかなく、風呂やトイレも共同だが、家賃相当額として入所者から1人当たり4万5000〜4万6000円を徴収している。家賃は、生活保護費のうちアパートなどの賃料として支給される「住宅扶助」の上限額とほぼ同額だ。

これに対し、FISが千葉市や千葉県船橋市で運営する3宿泊所と、別団体名義で併設する2宿泊所の06〜07年度の収支計算書によると、各宿泊所が大家に払っている「施設賃貸料」は、定員1人当たり1万5000〜2万5000円程度にとどまっていた。

最も差が大きかった「FIS船橋」(船橋市、定員138人)の場合、毎月4万6000円の「居室利用料」を入所者から集める一方、大家には、1人当たり約1万5000円にあたる月200万〜210万円の賃料しか払っていなかった。利用者の負担総額は賃料の約3倍の計算で、他にも3施設で2倍を超えていた。これらの差額をFISがどう処理しているのか明らかにされていない。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090928k0000m040125000c.html

毎日さんもネタを小出しにしてくるあたりがちょっとやらしいな、と思いました。これも「FISってのは酷い団体だねー」という記事ですね。
で、この零細ブログにしてはこのエントリはブクマも結構ついたし、アクセスも普段より桁が2つくらい増えたりしましたが、この件のどの辺が問題か、というか俺がどの辺が問題だと思ってるかがあんまり伝わってないような気がしたので、ちょっと書いときます。
このFISという団体がやってる事業自体は実はそう珍しいものではないし、上にもちょこっと書いたように、俺はこのビジネススタイルそのものが悪だとはあんまり思わないのですよ。もしも、架空の業務委託をしていたとなれば(違法である可能性があるので)もちろん問題ですが、「ピンハネ」だの「ぼったくり」だのはそりゃ商売だからある程度はしょうがないんじゃね、とも思ってるわけです。これは「社会福祉事業」なんで問題ありではあるけれど、普通の商売でお客さんに払ってもらう料金のうち3~4割が利益だという話なら、それほどひどいもんでもないでしょう。
仮にFISのやり方が褒められたものではないとして、というか、もしも毎日の記事の通りに、施設の運営もずさんで社会福祉事業を隠れ蓑に暴利をむさぼっていたとしてもですよ、さらに行政が「慣れ合い」だかなんだかで見逃していたとしてもですよ、これが「商売」であるという視点から見れば、そうたいしたことではない。「客」としてはそんな「店」に行かなければいい訳ですから。
もちろん、この毎日の一連の記事がきっかけで世間の注目が集まり、ずさんな施設運営があらたまり、入所者の待遇も良くなり、経理が正常なものになるか、あるいは社会福祉事業の看板を外して正式に営利事業に生まれ変わるかすれば、それはそれでいいことでしょう。俺もそれを願っています。
しかし、俺が一番問題だと思っている、というより、野次馬的に気にしているのは「具体的な金の流れ」です。「どこ」に、または、「誰」に流れているのか。そこを浮かび上がらせて欲しいわけです、毎日新聞さんに。今のところ、まだそれは分からないわけですけど、期待してますよ。

追記3

さらに続報が続いてますが、全てここで反応していたらきりがないので、後日別エントリを立てるつもりです。