前回のエントリでいろいろ生活保護について書きましたが、

現実問題として、生活保護制度が直面している問題って、実は「無年金の高齢者」をどうするかということじゃないか、と思うんですよね。「無年金」というのは、年金の保険料を納めていなくて、なおかつ納付免除の手続きも怠ってきたために、年金の受給権がない、ということです。
仕事をして収入を得ている高齢者(概ね65歳以上くらいの人たち)の方もたくさんいるわけですが、一般論として、高齢者に対する求人はそう多くはない*1し、60代くらいだとまだ元気な人も多いのでそういう人は働けばいいとは思いますが、年齢に伴う病気などで仕事をすること自体が困難になってくる人も多いし、そういう人の数は高齢になるほど増えるわけです。
で、仕事をするだけの体力がなく、かつ無年金の人というのは、現状としては生活保護で面倒を見るしかないわけです。要するに、生活保護が事実上「第2の年金」として機能するようになってきている、と。
考えようによっては、これは些末な問題でたいしたことではない、という風にもいえると思います。高齢者の生活費が年金から支出されるか税金から支出されるかの違いでしかなく、全体としては、若年層が高齢者を養う構造に変わりありませんから。
だったら、なおさら制度を整備しておく必要があるとは思うんですよね。無年金の人に対して「自業自得だろ」と言うだけで済ませることができるなら、なにも苦労はありませんが、憲法上そのようなことは出来ませんし、人道的にも問題がありますよね。
無年金の高齢者がこれから増え続けるのは目に見えているし、それが、生活保護全体に占める割合もどんどん大きくなっていくことでしょう。そういう人たちを切り捨てることが出来ないならば、生活保護とは別枠の制度で対処するということも視野に入れておいてもいい。そうすることで、いわゆるワーキングプア層などの生活保護への敷居が結果的に下がることにつなげられないか、と愚考するわけです。
本来、生活保護は緊急避難的な施策であるべきで、運用も迅速に効果的にしなければなりません。高齢者の問題はもっと長期にわたる問題なので、生活保護とは別の枠組みで対処したほうが良いように思えます。それって結局ばら撒きじゃん、と言われると困ってしまうのですが、失業や破産あるいは低賃金などにより困窮する人と、「無年金の高齢者」を同じ制度で救済するのは無理があると感じられるのです。つまり、やりようによっては再度自立の可能性が十分ある人と、年齢的に自立の可能性がゼロに近い人を、同じ皿に乗っけるのはおかしくないか、と。
それから、大きいのは医療費の問題。生活保護を受けると国民健康保険には加入できなくなり*2、全額が生活保護からの支給になります。生活保護の全支給額のうちかなり多くの部分を、この医療費が占めています。病気や怪我で働けなくなる人が多いだろうということを考えれば、当然と言えば当然ですが。で、まぁ、高齢になってくると、若いときよりは医者にかかる頻度が増えてくるものです。これが生活保護の財政をさらに圧迫してくる可能性は高いですから、そこらへんも一度整理しておく必要があるでしょう。


あと、前回書いた「生活保護よりも条件の緩い無利子の貸付金制度のようなものを作ったら」ということなんですが、僕が言いたかったことは、何も新銀行東京みたいな金融機関を新たに作れということではなくて、原則的に返還義務のない*3生活保護ではない、回収できる分のお金は可能な限り回収できるような仕組みを作ったら、ということです。だから、fromdusktildawnさんがざっと試算したようにワーキングプア対策などで新たに「10兆円から5兆円*4」もの予算が必要だとして、実際にはその全てを回収することは困難というか不可能でしょうが、1割でも2割でも回収できたらかなり違うはずです。だって今は回収率が基本的にはゼロなわけですから。

*1:実際には、高齢者向けの求人はそこそこありますが、たいていはその収入だけで生活が成り立つほど給与額は高くはないでしょう。

*2:社会保険は可。

*3:ただし、生活保護を受け始めた際に、資産が何かあった場合、例えば、保護開始前に遭った交通事故の慰謝料が後から入ってきた場合などは、一定の金額を返還する義務が生じます。

*4:たぶん、実際にはもう少し安く済むんじゃないかという気がしますが。そもそも10兆から5兆って、どんだけどんぶり勘定なんだ。いや、批判ではなくて、僕も細かい試算は出せないというか、今はそこまで踏み込む気はないので。