それは「好き嫌い」の問題じゃないですよ。

過去記事に、65Xさんという方から、次のようなコメントをいただきました。ちょっとスルーしてはいけないような気がしたので、そのコメントに対するお返事を兼ねて、久々に記事を書いてみます。

『ある企業にて採用・労務の担当をしていますが、
私は、心の中で「被差別」部落、創価学会信者、共産党関係者を「嫌い」です。
実際に、いやな目に合わされてきましたから。全員がそうじゃないという理屈はわかりますが、私の個人的感情なので、それは非難される謂れはないと確信します。
「昔、日本人にいやな目にあわされたから日本人が嫌いだ」という人も当然にあるでしょうしね。
結果「心証を含めて」所見をまとめて総合的に判断するので
必ずじゃないですが、僕が担当した面接では、殆ど
「被差別」部落民創価学会信者、共産党員は採用していないし、
それはしかし就職差別になるのかなあと。』

えーとですね、まず、65Xさんの個人的感情を云々することはしません。おっしゃるとおりそれは誰からも「非難される謂れはない」ことですから。なので、前半(「〜という人も当然にあるでしょうしね。」のところまで)については、特に異論はありません。


しかし、問題はその後。
「僕が担当した面接では、殆ど/「被差別」部落民創価学会信者、共産党員は採用していないし」と書かれていますが、これはちょっと問題じゃないですか? ひょっとして自覚されていないかもしれませんが、これは人権侵害をしている可能性がある、と思いますよ。(同時に「必ずじゃないですが」とも書かれているので、断言はしにくいですが。)
そもそも、65Xさんが面接した相手が「被差別部落民創価学会信者・共産党員」のいずれかである(あるいは、そのいずれでもない)と、どうして分かるのですか? 65Xさんの会社では、求職者の履歴書に、信仰する宗教・所属政党・出身地が部落であるかどうかを、書かせているのでしょうか? それとも、面接時に「あなたは「被差別」部落の出身ですか(創価学会の信者ですか/共産党員ですか)」というような質問をしているのでしょうか? または、興信所などを使って身元調査をしている、ということでしょうか?
そのいずれであっても、人権上の問題を抱えていると思います。これは僕個人の考えですが、そもそも企業の採用担当者がそのような情報を得ている(又は得ようとしている)ということが、差別を助長しているのではありませんか?
まず、部落の問題に関しては、相手の(親族を含めた)戸籍の調査が必要でしょうが、逆に言うと、そのような調査をしなければ(そして、本人からの申し出がなければ)、相手が部落出身者かどうかは判断できないはずです。僕が知っている範囲の官公庁などでは、就職内定者に提出させる住民票は本籍省略のものにしているはず*1で、それは要するに、部落出身であろうが差別もしなければことさら優遇もしないよ、と言うためのことな訳です。そもそも相手が部落出身であるかないかもこちらは知らないんだからね、ということ。(とはいえ、これは建て前の話で、実態は大分違うよ、ということはあるかもしれませんが。)
創価学会にしろ、共産党にしろ、信教・思想の自由の範囲内の話で、就職の面接でこれらのことをストレートに聞かれることは想像しにくいのですが、そうでないなら、素行調査のようなことをしているのでしょうか。仮に面接の場でそういうことを聞かれたとして、素直に「YES」と答える人もそりゃ居るでしょうが、「NO」と答えた人の中に嘘をついた人が居ないとも言い切れないですよね。ということは、確実に創価学会信者か共産党員かどうかを判断するには、必然的に面接以上のことをしないといけなくなる。で、そのようなことをされているんでしょうか?
もし、65Xさん(65Xさんの会社)がそのようなことは一切していないと言うのであれば、それはそれで違う問題を孕んでいます。つまり、不十分な根拠で(もしくは憶測だけで)相手の出身・宗教・所属政党を特定し、相手の不利になるように取り扱う、ということをしている可能性があります。それは愚かなことではないでしょうか。


まぁ、65Xさんがお書きになったことが、事実なのかどうかも僕には判断できませんし、事実だとしても、それを差別だと決めつけて批判するのもあまり気が進みません。ただ、65Xさんのコメントだけを読んだうえで、僕の個人的な感覚からはこのように思った、ということです。


あと、僕は以前に「敵をいたずらに増やすことは、自分自身を危うくするんだ。」という記事を書いていて、それにも多少リンクする部分があるのかなと思いますが、出発点は個人的な「好き嫌い」の感情*2であっても、その「嫌い」の対象を特定の人物から、同じ属性を持つ不特定多数の人に拡大するのは、やはり「差別」に繋がっていきかねないな、とも思います。

*1:たとえ現住所が被差別部落地域であっても、転居によって異動してきた人も居るはずで、断定はできない。

*2:その前に、嫌いになるきっかけの出来事があるんでしょうけど。