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「楽しい」ということには、二つの側面がある。自分が「楽しむ」ということと、他者を「楽しませる」ということだ。

日記

そして、仕事とか職業とか呼ばれるものは、ほとんど全てが「楽しませる」ことを目的にしています。それは、サービス業(第三次産業)に限らず、農業(第一次産業)でも製造業(第二次産業)でも基本的には一緒だと思います。農業なんかは「楽しませる」よりも「生きる」ということに直結していますが、現代の日本に限って言えば、おおざっぱに一緒だよと言っても、そう外れてはいないでしょう。
「好きなことを仕事にする」と言うとき、意外とその辺が語られていないような気がするので、ちょっと書いておきます。


例えば、「野球をする」ことが好きな少年がプロ野球選手を目指すとき、その少年は「自分が野球を楽しむ」ということに関しては意識的だと思うのですが、プロ野球というのはそれだけでは成立しなくて、「見る人を自分の野球で楽しませる」ことまでできていなくては成立しないわけです。イチロー選手や松井秀喜選手なんかは、それを相当に高度な次元で達成しています。だからこそ、少年が憧れる。中には、「自分が楽しむ」ことだけしか考えずに頑張って成功する人も居るかもしれませんが、普通はそれプラス「見る人を楽しませたい」という動機付けをしてこそ、さらに努力できるのではないでしょうか。
それにしたって、才能とか素質を脇に置いておいても、イチローや松井の努力は並大抵のことではなく、常人が簡単に真似できるものではありませんが。
「野球が好き」というモチベーションは、何も選手になるだけではなく、それに関わる仕事に就きたいということにも繋がるでしょう。直接プロ野球に関係するとなれば、球団運営とか球場の管理とか他にもいろいろあるでしょうが、それらも「楽しむ」ことだけを追求していては、いずれ壁にぶち当たることになるんじゃないでしょうか。どこかで「楽しませる」という意識を付け加えるか、そこに切り替えるかしないと。
だから、「好きなことを仕事にする」ときには、自分がそれを「楽しむ」ことだけが好きなのか、「楽しませる」ことが好きなのかを見極めないといけない、と思います。もちろん、「楽しむ」ことはそんなに好きじゃないけど、「楽しませる」ことは大好き、という人も居るでしょうしね。


少し話が逸れますが、ミュージシャンの人が、時々インタビューなどで「音楽って『音を楽しむ』って書くでしょ。だから、小難しく考えたりしないで、素直に楽しみたい」というようなことを言っているときがあります。僕は、これはリスナーの側から見れば正しいことかもしれないけれど、作り手側の意識としては嘘っぱちだろう、と思っています。*1たいていの場合、こういう言葉はそのミュージシャンの強がりであったり、気持ちを前向きにさせるための方便であったりすることが多いと思います。逆に、本気でそう思って音楽をやっているのなら、それはたいした音楽を作っていないのだろうな、とまで僕は思ってしまうことがあります。
「楽しむ」ことも大事、「楽しませる」ことも大事。その「楽しませる」ことを「楽しむ」ことができれば言うことなし。でも、やっぱりそれは難しくて、苦行のようなことになってしまうことも多い。でもでも、それが好きなことを仕事にする、ということ。
以前、バンドをやっていたとき、「楽しむ」ことはわりと簡単でした。しかし、「楽しませる」ことはそうとう難しい。そのレベルに達してたかどうか、今考えても怪しい。でも、ほんの一瞬でもそれができたと思えたときは、本当に「楽しい」んですよね。
そして、それを継続するのはもっと難しい。「楽しい」を維持するのは不可能に近い。
だから、僕は一つのことを仕事として長く続けている人を、ほとんど無条件で尊敬してしまいます。それは、バンドマンであったり、プロのスポーツ選手であったり、職人さんであったり、会社員であったり、僕の死んだ祖母のようなお百姓さんだったり、ほとんどあらゆる人に対してそう思います。長く続けているということは、それだけで、つらく苦しいことを乗り越えてきたってことですから。*2


仕事とというのは、第一に自分が生きるためにすることです。そこに誰かを「楽しませる」という要素が加わる(意識する)ことによって、より頑張れる、ってことはあるでしょうね。

*1:そもそも、「音楽」が「音を楽しむ」ってこと自体、言葉の成り立ちから考えると間違い。「楽」という字に「楽しい」という意味が付いたのは、「音楽」という言葉ができた後。「楽」という1字だけで「音楽」という意味が元々あって、音楽を聴いたりしているといい気持ちになる、というところから「楽しい」という意味が付いた、と僕は記憶しています。だから、強いて言うなら「音楽は楽しい」ということになるのかな。でも、これは全然別の話ですね。

*2:公務員は除く。すごく頑張っている人は尊敬できるけど、惰性でもやれてしまうところがあるから。