好きなものは好きです

その昔、元SEX PISTOLSジョン・ライドンが、ある音楽雑誌のインタビューで、「70年代後期のオリジナルパンク時代を振り返る」という趣旨の質問を受けて、同時期に活動していたTHE CLASHというパンクバンドをひどくこき下ろしていたんですね。(どんな内容だったかは、うろ覚えなんで書くのをやめときます。)そのインタビューを読んだ当時の僕は、SEX PISTOLSについてはある程度知っていて、実際に曲も聴いて「かっこいいなぁ、好きだな、これ」って感じてたので、「ジョン・ライドンがそこまでけなすなら、まぁCLASHは聴かなくてもいいか」と思ってしまいました。自分の好きなアーティストがけなす(≒嫌いだという)バンドを、あえて聴こうと(≒好きになろうと)しないという、まぁ普通の反応かな。
ところが、その後しばらくして、たまたまCLASHの曲を実際に聴く機会があって、それがまたかっこよくて、それ以来CLASHも好きになっちゃったんですよ。
そのとき僕が、ジョン・ライドン(≒SEX PISTOLS)がCLASHを嫌ってるらしいという事実と、自分がこの両バンドとも好きという事実の折り合いをどうつけたか。とくに深く悩みもせず、「まぁ、それはそれ。これはこれ」とあっさり割り切ってしまった。二つのバンドの仲が良くない(かもしれない)ということと、僕がそのバンドを好きだということとは、あんまり関係ないよね、と考えたわけです。
というか、あるバンドとあるバンドの仲が悪いなんてことは、ごく普通にあることなんで、いちいち気にしてたら音楽を楽しめません。(そもそも、仲が悪いことすら知らずに聴いていることの方が多いんじゃないでしょうか?)*1


…というようなことを考えたきっかけは、(また例によって)みちアキさんのところの5月21日の記事そこで紹介されてた記事(PDF)もう一つの記事を読んだからなんですが。この記事でみちアキさんは、「自分の好きなブロガーAとブロガーBが揉めている状況」に対して、「認知的反転を施すことにして『2人とも、揉め事が好きなんだな!』と状況の再解釈を行うことにし」たそうです。
で、これって、僕が上で書いたことと似てるなぁ、と思うんですよね。


ここからは、僕個人の考え方の問題なんですが、自分が一度好きになったものを嫌いになるのは「もったいない」という気がするんです。やむにやまれぬ事情というものはあるでしょうけれども、そうでなければ、ずっと「好き」のままでいいじゃない、と。わざわざ、嫌いなものを増やすよりも、好きなものを持ち続ける方がいいよなぁ、なんてことも思います。もちろん、嫌いなものを無理に好きになる必要は全然ないのですが。


ただ、好きと言っても、いろんなレベルがあるわけで。
音楽なんかは「その人が好き」と「その人が作る音楽が好き」の間に、「ミュージシャンとしてのその人が好き」というレベルがあることは、わりと理解されやすいかもしれません。「ミュージシャンとしてのその人は好きだけど、それは必ずしもその人そのものを好きということではない」ということは普通の感覚だと思います。言い換えると、あるアーティストのファンではあるけれど、その人が嫌うものまで共感するわけではない、ということですね。(うーん、これは僕が「表現する人」と「表現されたもの」をかなりはっきり区別してるので、わりとすんなり出来ちゃうのかもしれません。)
けれども、ブログに関しては「その人が好き」と「ブロガーとしてのその人が好き」の間が、少し曖昧になってる(比較的、一緒くたにされやすい)のかもなぁ、という気がします。*2(他にも「その文章が好き」「その文章の内容が好き」「その文体が好き」「そのブログ全体が好き」「記事によっては好き」など、さらにいろんなレベルの「好き」がありますが。)まぁ、音楽と違って、言葉そのものを媒介にするブログという場では、そうすっぱりと割り切れないもんだ、ってのも分かるんですけどね。
あと、一方通行的なメディアを介したコミュニケーション(というか消費)と、双方向的なコミュニケーションが可能な場(それこそWeb2.0的世界?)とでは、割りきりがより難しいのかな、とも思います。だって、ジョン・ライドンと僕の間には、(CDを聴いたりするなど以外の)直接的な接点なんてほとんどないけれど、ブロガーAさんやブロガーBさんとは、容易に接点がつくれてしまうんだから。


まぁ、なんだかんだ言ったところで、結局のところ「僕は僕が好きなものをずっと好きでいたい」ってこと以上に主張したいことなんて、あんまりないんですけどね。

*1:ただ、AというバンドのファンとBというバンドのファンの仲が悪い、というようなことは多少は気にしたほうがいいかもしれません。BのライブにAのTシャツを着ていったために、身の危険を感じる、なんてことは滅多にあることじゃないですが、全然ないことでもないです。

*2:これは、WEB上の人格と実生活の人格は別、って話じゃなくて、むしろWEB上の人格においても「Aさんが好き」と「ブロガーとしてのAさんが好き」というレベルがあるんじゃないか、ということです。