俺もBABYMETALについて語るよ。ついでにPerfumeと『1998年の宇多田ヒカル』についてもちょっと語るよ。

 なんかもう、ブログを書くのが久しぶりすぎて、書き方が分からなくなってます。(>_<)
 さて、何について書くかというと、BABYMETALですよ。2ndアルバムがリリースされてから既に1か月が経ちましたが、いまだに分析記事が書かれていたりして、なんというか、こういう風についつい何か語りたくなってしまう存在になったんだなー、などと思ったりするわけです。先に明らかにしておきますが、俺はBABYMETALが好きだという立場からこの文章を書いています。

なぜ「BABYMETAL」は海外で成功して「Perfume」や「きゃりーぱみゅぱみゅ」は失敗したか - Letter from Kyoto

Perfumeが最初注目された時の印象は「よくわからないけどなんか凄い」だった。当時のJ-POPシーンにはテクノ色なんてなかったから新鮮だった。同時期に、Perfumeの音楽プロデューサーである中田ヤスタカcapsuleは、FLASHBACKというアルバムを出しておりiTunes上で海外ウケしていた。Perfumeのよくわからない凄さを中田ヤスタカが海外向けに売り出せば「これ、いけるんじゃね?」と思った。でも実際はそうならなかった。ポリリズムで火が点いてからのPerfumeは、思いっきり日本の市場向けに売り出された。テレビに出まくって音楽番組に出まくって、CMに出まくった。日本では確かに一斉を風靡した。でも僕は、あのままの路線で海外行けば良かったのに!!とすごく残念に思ったことを覚えている。

日本においてそういうことは普通だと思う。多少海外で評価を得たところで、まず日本の市場をおさえてから海外進出を狙う、というのが今までの日本式スタイルだろう。逆に言えば、それをやるから今まで失敗してきた。BABYMETALについては、先に日本よりも海外で評価された。彼女らを支えるチームがすごかったのは、そこから日本の市場に合わせるのではなく、海外でウケたポイントを掴んでそっちに振り切ったところだろう。これがもし日本でそこそこ評価を得ていると、日本のファン目線や音楽業界のしがらみなどがあって海外向けに振り切るなんていう自由が効かない。Perfumeきゃりーぱみゅぱみゅも日本の市場に合わせた音楽とキャラクターを提供して日本で売れてしまったばかりに、今さら海外ウケする仕様に振り切ることは不可能だ。BABYMETALがもし先に日本で売れていたら、ただの中堅ヘビメタアイドルで終わっていたと思う。少なくともビルボードのランクインやウェンブリーなんて偉業には到達しなかったはず。

 まー、Perfumeやきゃりーが「失敗」と言われると結構つらいな、と思ってしまいますね。ちなみに俺は、PerfumeはCD3枚くらい持ってる、きゃりーはテレビなどのマスメディアを通してしか知らない、といった程度なので、特にその音楽について何かを語りうるような立場ではないのですが、そういう俺の認識では、彼女らは日本発のアーティストとしては、そこそこ受け入れられてる方なのでは、と。
 ただ、この分析自体はこれはこれで見方の一つではあるよな、と思います。BABYMETALの海外での受け入れられ方と比較すれば、Perfumeやきゃりーはまだそこまで行けてないのは確かだし。
 でもなー、BABYMETALが海外でウケたのは、海外向けに「振り切った」からなのかなー、とも思うわけです。
 Twitterでも書いたのですが*1、そもそもBABYMETALの最初期は、普通のアイドル的な楽曲にメタル風のアレンジを施してみた、という以上のものではなかったんですよね。


BABYMETAL - ド・キ・ド・キ☆モーニング - Doki Doki☆Morning (OFFICIAL)


 ところが、これに海外のメタル系のニュースサイトが食いついたんですね。

Babymetal: Japanese Princesses Of 'Idol' Metal - Blabbermouth.net

 って、これ、2011年の記事か、もう5年近く前なんだ…。それはともかく、今はさすがに削除されてるようですが、当時のこの記事のコメント欄には、賛否両論というか、ほぼ否の意見ばかりが投稿されており、中には人種差別的というか人種差別そのもののコメントもありました。

 「日本にもう一度水爆を落とせ!」
 「日本に落としたのは原爆だ。この物知らずめ」
 「知るか、ボケ」

 …みたいなやり取りがあって、ヘイトスピーチもここまで来ると笑えるんだな、と思ったことを記憶しています。それでも、あえて当時の海外のメタルファンの気持ちを斟酌すると、「俺たちの聖域に日本のアイドル風情が土足で上がり込んできて冒涜しやがって」というものだったでしょうから、肯定はしないけれどその感情は理解できないものでもないな、と。
 俺自身は好きなメタルのバンドはいくつもあるけれど、メタルというジャンルそのものに忠誠心を持つタイプではなかったので、特に何とも思わず「あー、アイドルのよくある企画ものの一つだねー。これにマジで怒っちゃう海外のメタル好きは、純粋でまっすぐすぎる*2なー」などと、冷めた上から目線でこの騒動を眺めていたのですが、今思うと、作り手はある種の手ごたえを感じてたんでしょうね。BABYMETALは、良くも悪くもそれだけ注目を集めてしまう存在である、と。
 で、そこで、作り手がやったことは何かと言えば、「まずはコアなアイドルファンを取りに行く」ということがあり、それから「コアな音楽好きにアピールするクオリティの曲をリリースしていく」というものだったわけです。この辺は既に言い尽くされてることだと思うので、あまり詳しく書きませんが、俺個人がBABYMETALに本格的に興味を持ったのは、COALTAR OF THE DEEPERSや特撮のNARASAKIさんが作曲した「ヘドバンギャー」から。その後、元THE MAD CAPSULE MARKETS/現AA=の上田剛士さん作曲の「ギミチョコ!!」などが決定打になってハマっていった感じです。*3
 何が言いたいかというと、この時点で、作り手は別に海外向けに振り切ってるわけではなく、ちゃんと日本国内市場向けに売ってるわけですよ、と。サマーフェスへの出演など海外への本格的な進出は、1stアルバム発売後のことで、日本国内でそれなりにセールス基盤を作ってからなんですよね。そして、それをそのまま海外に持って行ってる。俺の目からは、特に海外仕様にしたわけではなく、日本でやってたことをそのまま海外でも通用させてしまった、という風に見える。そこがポイントなんじゃないかな、と思うんですよね。

 ここで思い出すのが、数か月ほど前に読んだこの本。↓

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)

 本当はこの本についても感想を書かなきゃなー、と思いながらできてません…。が、それは置いといて。
 この本の中で、著者の宇野さんは宇多田ヒカルの海外進出プロジェクト=Utadaが海外で「売れなかった」理由として、いきなり世界のポップミュージックの最前線に立とうとしたからだ、と書かれています。以下引用。

 アメリカの音楽マーケットは強固なジャンルのセグメントによって成り立っている。もちろんそこには人種の壁もあるが、人種以前に、まずはどのジャンルの音楽であるかをはっきり示さないと、ジャンルによって細かく専門が分かれているラジオでかかる機会を得ることもできない。マドンナは80年代前半のディスコ・ミュージックのシーンから登場した。ビョークはロックバンド、シュガーキューブスのボーカリストとして80年代後半のニューウェーブ・ロックのシーンから登場した。現在ではあらゆるジャンルや人種を横断して支持されているトップ・スターたちも、最初は限定されたジャンルにおける注目のニューカマーだった。しかし、Utadaはそうしたプロセスを一気に飛び越えようとしたのだ。

 …で、結果として失敗した、と。つまり、あれだけアメリカ市場向けに念入りにプロダクトされたように見えた(聞こえた)Utadaの音楽であっても、何のジャンルに分類したらいいのか分からないと受け止められていたのではないか、と。それでいくと、BABYMETALは分かりやすい、超分かりやすい、分かりやすすぎて困る、くらいのもんでしょう。
 さらに言えば、Perfumeも分かりやすい、少なくとも分かりにくくはない。でも、テクノポップアイドルという路線は、メタル+アイドルほどのインパクトはなかったかもしれない。まー、ありかなしかで言えば、あり、だよね、みたいな。BABYMETAL以前は、メタル+アイドルなんて(少なくとも欧米では)絶対なし!!!、だったのと比べちゃうとね、ということ。でも、Perfumeがもっとブレイクするとしたら、これからなんじゃないかとも思うんですが、その話は後で。
 『1998年の宇多田ヒカル』から、もう少し引用します。Utadaの作品としての「失敗」の理由についての部分。

 しかし、やがて気付いた。『EXODUS』も『This Is The One』も「音」そのものの宇多田ヒカル濃度が低いのだ。それは、ほぼ同時期に制作された、「All Songs Written and Arranged by Utada Hikaru」印、まさに宇多田ヒカル血中濃度100パーセントの4枚目のアルバム『ULTRA BLUE』(2006年)や5枚目のアルバム『HEART STATION』(2008年)と比べて、というだけではない。『DEEP RIVER』までのアルバムと比べても、やはり圧倒的に宇多田ヒカル濃度が薄いのだ。

『EXODUS』と『This Is The One』では、「編曲」という宇多田ヒカルの音楽の要の部分を売れっ子プロデューサーに任せた一部の曲だけでなく、そんな宇多田ヒカルの声の「聖域」までもが侵されてしまっていた。
 宇多田ヒカルの音楽の世界というのは、良くも悪くもそれだけ特殊な、言葉を換えるなら、フラジャイルなバランスの上に成り立っている世界なのだ。

 宇多田ヒカルの音楽はコーラスさえも本人の声で重ねられていたが、Utadaはそうではなかった、ということが作品としての「失敗」に繋がってしまった。声に限らず、既に完成の域にあった世界に「異物」が混入してしまったというある種の残念感、というか。
 無理を承知でここでもBABYMETALを比較すれば、彼女らは日本でやってたものをそのまま何も変えずに、日本語の歌詞さえもそのままに海外に持って行った。そこに「異物」の混入する隙などあるはずもなかった。あえて言えば、BABYMETALそのものが強烈な「異物」だった、とは言えるかもしれませんが。だから、「KARATE」みたいな曲を聴いても、海外向けのサービスということも思うけれど、以前からの路線を突き進んでるな、とも思うわけです。


BABYMETAL "KARATE" Official Music Video - New Album Metal Resistance OUT April 1st
 
 …と、ここまでいろいろ書いてきて、図らずも分析めいてきてしまいました。卓袱台返しのようで申し訳ないような気もしつつ、それでも書いちゃいますが、でも、結局、これって全部、結果論だよね、と。
 結果をとらえてあれこれ理屈は付けられるとしても、何が成功して失敗するか、売れるか売れないか、そんなことはやってみないと分からないわけです。たまたまBABYMETALは成功したけれども、これを他の人がやって上手くいく保証も何もない。Utadaの時代に今のBABYMETALと同じようなやり方でやれと言ったって、10人中10人が「無理でしょ」と返したでしょう。
 UtadaPerfumeが最初に海外を目指した頃と、BABYMETALがブレイクした現在では、音楽をめぐる状況が日本にしても海外にしても大きく違っている。そんな中で一つだけ確かなのは、日本の音楽を海外で受け入れてもらいたいと思うなら、明確な意思を持ってそれを持って行かないといけない、ということだと思います。なぜなら、そうやって持っていかなければマスにリーチしないからです。日本の音楽を愛好する海外のファン層は、ゼロではないにせよ、限りなく薄いからです。そこはネットだけではカバーできない。
 だから、ロックではCrossfaithやColdrainやあるいはONE OK ROCKも含めて、試行錯誤しながら戦っているし、逆にPerfumeもまだまだこれからブレイクする可能性を持ってる、とも思うわけです。

 ここから少しだけPerfumeの話を書きます。以前からそうだったと言えばそうなんですが、Perfumeの曲って、いわゆる47抜き音階*4を使った歌メロが非常に多い。これって、結構強烈に「和」風に聴こえると思うんですよね。こないだ出たアルバムを聴いてもそう感じる。日本国内向けというより、むしろ、海外市場を意識してるんじゃないか、と。海外の音楽ファンに日本のエキゾチックな魅力をアピールしようとしているんじゃないか、と思うんですよ。それが成功するかどうかは分かりませんが、いつか成功したら面白いな、と思います。


[MV] Perfume 「FLASH」


 だいたいPerfumeもBABYMETALも、歌詞を英語に無理に変えたりせずに日本語のままやってるのがすげーなー、と俺なんかは思います。そうやって、日本語の音楽が海外でも受け入れられる土壌が育ってくれば、それこそUtadaではなく宇多田ヒカルの音楽がそのままに受け入れられるのではないか、そうなってくれると嬉しいなー、というのを、この記事の結論としたいと思います。*5

METAL RESISTANCE(通常盤)

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BABYMETAL-LTD.EDITION

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COSMIC EXPLORER

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COSMIC EXPLORER(初回限定盤B)(2CD+DVD)

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花束を君に

花束を君に

真夏の通り雨

真夏の通り雨

*1:この辺にまとまってます。→ http://twilog.org/nijuusannmiri/date-160410

*2:洒落が分からん、の言い換え。

*3:過去の記事で、2014年にリリースされたアルバムの中で19位に選んでます。→ 2014年 私的ベスト20(洋楽邦楽問わず) その1 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は

*4:47抜き音階が何かわからない人は、各自ググるように。

*5:で、蛇足のようについ付け足しちゃうんですが、BABYMETALが海外でブレイクしたと言っても、実際には日本国内での流通の方がまだ圧倒的に多いんですよね。その辺もちゃんと踏まえておかないと、実態を見誤ってしまうかもしれません。

はてな(というかJASRAC)から、引用した歌詞の削除要請がありました。

昨日付で、はてなから次のようなメールが来ました。

nijuusannmiri様(略)

こちらははてなサポート窓口です。
平素はサービスをご利用いただき、ありがとうございます。

このたび、ご利用いただいておりますはてなダイアリー内に、楽曲の歌詞が
無断で転載されており、著作権侵害に相当するとして、
一般社団法人日本音楽著作権協会JASRAC)より削除要請を受けております。

お手数をおかけいたしますが、本メールをご確認いただき、削除の可否、
掲載の有無に関わらず、【必ず】所定のフォームよりご回答をお願いします。

・実際に著作権侵害に相当する場合
対象記事から歌詞の削除を行い、回答フォームより削除を行った旨をご回答ください。

・正当な理由から著作権侵害に相当しないため歌詞の削除を行わない場合
歌詞の削除を行う必要はありませんが、その旨を回答フォームよりご回答ください。
正当な理由の例としては
著作権32条に定める引用の範囲である」
「すでに許諾を得ている」
著作権が消滅した楽曲である」といったものが挙げられます。

・歌詞が掲載されていないなど要請に誤りがあり対応ができない場合
その旨を回答フォームよりご回答ください。

今回、要請対象となる記事が非常に多数ですので、期日までにご回答がない場合には
状況の確認ができず、自動的に送信防止措置の対象となります。ご注意ください。


【回答フォーム】
(URL略)
※このURLは、株式会社はてなの契約するGoogleフォームです。送信されたデータは削除可否の確認にのみ利用します
※ 回答フォームURLは第三者に公開しないでください。

今回の削除要請対象となる記事のURLおよび掲載楽曲は下記となります。
尚、削除要請の対象は、記事全体ではなく歌詞のみとなります。

【対象記事のURL】http://d.hatena.ne.jp/nijuusannmiri/touch/20070227/1172563915
JASRAC登録コード】00605697
【楽曲タイトル】ディズニーランドへ
【アーティスト】BLANKEY JET CITY

対象記事としてトップページや検索結果ページのURLが記載されていることがあります。
歌詞の掲載を行った記事がご自身で確認できない場合、はてなダイアリーの左上にある
検索機能でタイトルや歌詞の一部を日記検索し、ご確認ください。

2016年1月22日(金)24時までにご回答がない場合、権利侵害情報の掲載状況に関わらず、
権利侵害情報の送信防止措置として、2016年1月29日までにご利用のダイアリー全体が
非公開となり、公開できなくなります。

フォームからの回答がないためにダイアリーが非公開となった場合も、
後日、はてなあてに歌詞の削除を行った旨をご連絡いただければ、
再公開を検討いたしますので、お問合せフォームよりお知らせください

はてなからというよりは、JASRACから、といった方がいいですかね。
対象はこの記事。→ 自分の中の「差別する心」と向き合うための1曲 - 23mmの銃口から飛び出す弾丸は


あー、1週間ほど前に見かけてブクマしたあれか、って感じです。
あれ↓
staff.hatenablog.com
それで、まー、今回削除要請があった記事は、「思い余って」全文引用しちゃってたので、「著作権32条に定める引用の範囲」は超えてるかもしれないなー、と思ったので、歌詞の部分はサクッと削除して、外部の歌詞サイトのリンクに変えました。
ひょっとしたら今後、他の記事に対しても同じように削除要請があるかもしれませんが、その時はその時で、また個別に考えて対応します。

しかし、これ、もう9年くらい前の記事ですよ。久しぶりに読んで、「あー、俺、こんなこと書いてたのか」と思いました。若いなー、というか、ちょっと恥ずかしいような。でも、考え方はあんまり変わってないな、と思いました。

吉田秋生『海街diary』、6巻までの感想

 半年ぶりの更新ですか。この4月に転職してから、Twitterでもツイート数が激減してますが、ちゃんと生きてますよ、と。

 先日、是枝裕和監督の映画『海街diary』を観てきました。それで、自分なりにいろいろ思うところもあって、原作の漫画をあらためて読み直してみたんですね。

 で、その感想をちょこっとTwitterでも書いたんですが、これはきちんとブログにも書かなきゃいけないかなー、と。その感想ツイートも、何人かの人にRTされたり、ふぁぼられたりして、それで背中を押されたような気もしたし。

 

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃 (flowers コミックス)

 

 

 俺は、吉田秋生のいい読者では決してなく、『BANANA FISH』は大学生の時に一応読んだな、あとは『吉祥天女』と『河よりも長くゆるやかに』が奥さんの蔵書にあったので、それを読んだ(そもそも『海街』も奥さんの蔵書でした)というくらいなんですが、『海街diary』って、ひょっとしたら吉田秋生の最高傑作になってもおかしくないんじゃないか、などと思っています。

 

 作品の舞台は鎌倉。そこに住む、看護師の長女・幸、信用金庫に勤める次女・佳乃、スポーツ用品店で働く三女・千佳の三姉妹のもとに、15年前に離婚によって生別した父の訃報が届くところから物語は始まります。ちなみに母の方はその後、別の男性と再婚し家を出ており、姉妹は祖母に育てられたという。(その祖母も数年前に亡くなっている。)両親の離婚の原因は父の不倫であり、その父は、不倫相手の女性と再婚し、一女(すず)をもうけた。しかし、すずの母は病没。父は三度目の結婚をしていた。その父の葬儀のために、姉妹は山形へ行き、そこでいろいろあって、中学生のすずを鎌倉の家に迎え入れることになる…、というのが、第1話のだいたいのあらすじ。この第1話(の途中まで)は、ネット上でも読めますね。さっき気付いた。

→ 「海街diary 1」 | flowers コミックス | 小学館

 

 現在、6巻まで刊行されていますが、まだ完結していません。なので、この作品の評価というか、この作品が何を描こうとしているのかをここで言うことはできないんですが、それでも、ここまでで何が描かれてきたかを言うことはできるし、そこから何を読み取れるのかを論じることもできるだろうと思います。

 

 Twitterでも書きましたが、これは「愛と死」の物語なんだろうと俺は思っています。そして、そこからどうしても逃れられないものとして、登場人物の口を借りて、「人の生き死ににお金の話はつきものなの」ということも語られています。人の死には「お金の話はつきもの」ということは、既に第1話から正面切って描かれており、結果的にそのことが、すずの鎌倉行きにつながったようにも見えます。なぜ「人の生き死ににお金の話はつきもの」なのか、その背景には「家」というものがあります。

 「家」とは何なのか。それは日本においては財(資産と言ってもいいかもしれませんが)を管理する法人として機能してきたということと、近代以降に日本社会が重視するようになってしまった「血」の問題の二層があります。法人であるからこそ、家の存続が関心事になるし、さらにそれが血によって結ばれた「家族」によって運営されるということを重視するという現実があるからこそ、逆説的に血の繋がらない(または繋がりが薄い)家族の価値というものが生まれてしまうわけです。血が繋がっていれば当然に家族であるけれど(本当はちっとも当然ではないわけですが)、その繋がりが弱くても家族たりうるんだ、というように。

 このような「家」に人は縛られ、それゆえに「愛」が阻まれてしまうことが起きます。それは、三姉妹の母とその母である祖母との関係でもそうだし、さらにすずの母とその母(すずから見た母方の祖母)との関係でもそうで、お互いが生きている間には和解が不可能だったという事実からもそれが伺えます。そのあたりのディテールは未読の方は是非実際に読んで確認してほしいところです。

 「愛」というのは、男女や夫婦間の愛情(恋愛・性愛)にとどまらず、親子や兄弟姉妹のそれも含むし、たぶん友情も含んでいいと思います。愛は、性差や年齢差やその他の様々な障害を易々と乗り越えてしまう反面、乗り越えたことによってまた失うものも大きく、「家」というものはその失われるものの一つの象徴なのかもしれません。すずを含めた四姉妹の父の人生は、その「愛」によって、この物語に登場する様々な「家」を翻弄し、結果として結び付けてしまった、とも言えます。

 恋愛ということで言うなら、長女・幸や二女・佳乃の恋愛事情の変遷というのも興味深く、そこだけ取り出しても論じる価値が十分あるのですが、今後の展開によって大きくその意味が左右されそうな予感もあり、ここで触れるのはやめておきます。

 財を管理する法人としての家に拘りますが、佳乃の恋人として登場する朋章や、海猫食堂の二ノ宮さんのエピソードも、「家」の持つそうした側面が大きく関わっています。

 

 ところで、三姉妹にすずが加わることによって、この作品は「四姉妹の物語」になるわけですが、末妹であるすずが、同時に長女として育ったということで、そう単純ではありません。これが、幸とすずの共通点が浮かび上がってくる仕掛けにもなっています。(この辺りの構造は、是枝さんの映画でも明確に意識されています。)

 つまり、幸もすずも長女(長子)であることで、否も応もなく「家」の問題に直面せざるを得なくなったということです。そこで思い出すのは例の『アナと雪の女王』で、あれもエルサという長女の物語だったんですよね。しかも、王家という「法人としての家」の究極のような世界。そこで親から受け継いだ正も負も含めた遺産が姉妹にもたらした悲劇を、愛によって乗り越える、というのが、『アナ雪』のテーマでした。しかし、『海街』では、そう簡単に乗り越えさせてはくれないように見えます。別の言い方をすれば、そこまでファンタジーの世界の話ではありませんよ、ということ。

 

 では、愛は家によって阻まれたままなのでしょうか。

 そこでさらに俺が思うのは、この作品の中で繰り返し描かれる「近しい人の死」というモチーフのことです。「家」のしがらみによって引き裂かれた人々が、「死」によって再び結びつくという「再生」の物語が何度も語られているのです。三姉妹と父の「和解」や、すずの母と祖母の関係などもそれに当たります。これらはその当事者の死がなければ、再び交差することはなかったものだったんじゃないでしょうか。

 俺はTwitterで「「愛」は、「家」によって阻まれ、「死」によって再生する、のだろうか」なんて書いていますが、それはあまりにも悲劇的なような気がする反面、同時にあまりにもロマンチックな言い方だな、とも思います。そして、これは悲劇的ではあるけれども、それだけではなく、新たな結びつきを登場人物たちにもたらしてもいるわけです。死というものが、ネガティブなものとしてだけあるのではなく、生きている者にある種の恩恵を与えてくれているという面も持っている、ということです。

 それにしても、この作品に出てくるすずの同級生・サッカーチーム仲間の中学生たちは、ちょっとその年齢に不釣り合いなほど「近しい人の死」を経験してきています。さらに癌というモチーフも見逃せません。それらは単に物語を転がすための小道具としてあるのではなく、作者がある覚悟を持って選び取ったテーマなんでしょう。

 

 ここまで「家」には二層がある、ということを書いてきましたが、この作品で描かれる家には、さらに別の意味もあります。それは、姉妹が暮らす物理的な意味での鎌倉の「家」と、精神的な意味も含めた「居場所」としての「家」です。前者は三姉妹の母が「思いきって処分したら」と口走ったときに幸が猛反発するエピソードで、後者は進路に悩むすずのエピソードで特にその意味が強調されますが、この作品の通奏低音として流れているテーマの一つと言えると思います。

 この作品を「寄せ集めの疑似家族が『本当の家族』になる物語」として読んでもいいとは思いますが、俺には多様な意味での「家」を描き、「死」を通して「愛」を浮かび上がらせる物語に読めるんだよね、という話でした。

 

海街diary 2 真昼の月 (flowers コミックス)

海街diary 2 真昼の月 (flowers コミックス)

 

  

海街diary 3 陽のあたる坂道 (flowers コミックス)

海街diary 3 陽のあたる坂道 (flowers コミックス)

 

 

 

海街diary 5 群青 (flowers コミックス)
 

 

 

 

海街diary オリジナルサウンドトラック

海街diary オリジナルサウンドトラック

 

 

 

2014年 私的ベスト20(洋楽邦楽問わず) その2

 さて、今年の私的なベスト、10〜1位のご紹介です。20〜11位は前の記事で。
 どんどん行きますよ。

10位 DIR EN GREY 『ARCHE』

ARCHE(初回生産限定盤)

ARCHE(初回生産限定盤)

 俺自身はまだきちんとこのアルバムを聴きこめていないとは思うんですが、このバンドとしては「ストレート」であると評価されているようです。確かに前作などと比べても、バンドの一体感というかグルーヴ感が強まった気はします。とはいえ、俺がこのバンドの音楽に惹かれるのは、やはり異形なところ。そして、そこもしっかりと深化していっていると感じました。


9位 Roadkill Ghost Choir 『In Tongues』

In Tongues

In Tongues

 またNoiseTradeで知ったアメリカのマイナーなインディバンドです。これもシューゲイザーオルタナティブロックの範疇ですかね。このバンドはですね、「A Blow to the Head」、この曲があまりにも良くて。この1曲のためだけにこの順位にしたと言っても過言ではありません。特に後半の怒涛の展開に注目してください。

8位 BACK DROP BOMB 『Loftinaction』

Loftinaction

Loftinaction

 このアルバムを初めて聴いたときに、「あー、これが『ミクスチャーロック』だよ!」と思いました。「歌」があって、「リフ」があって、「跳ねるリズム」がある。それ以上の説明は不要でしょう。傑作です。


7位 AC/DC 『Rock Or Bust』

Rock Or Bust

Rock Or Bust

 これも説明不要の傑作、と言っていいでしょう。それでも敢えて言えば、「ロックであり続けること」「ロックし続けること」ことの一つの究極形だと思います。いくつもの困難を乗り越えてきたベテランだからこそ、作り上げることのできた渾身のハードロック、です。


6位 Ásgeir 『In The Silence』

イン・ザ・サイレンス

イン・ザ・サイレンス

 今年の前半に繰り返し聴いたアルバムのうちの一つです。アイスランドの人。フォークとかフォークトロニカの文脈で語られることが多いかと思うのですが、去年あたりからずっとポストロック的な音楽に惹かれ続けている俺の耳にもしっくりきました。来日が近いですが、名古屋にも来てほしかったな…。


5位 Death From Above 1979 『The Physical World』

Physical World

Physical World

 このバンドも前作からずいぶんインターバルがありました。約10年ぶりか。このバンドもRoyal Blood同様ギターレスのデュオですね。しかし、洗練とは無縁と思えるこの荒々しいサウンドが素晴らしい。最高です。MVもめちゃくちゃかっこよかったです。


4位 Antemasque 『Antemasque』

ANTEMASQUE (アンテマスク : +bonus track)

ANTEMASQUE (アンテマスク : +bonus track)

 元マーズ・ヴォルタの2人とどうしても言ってしまうのですが、マーズ・ヴォルタとは全く違ったアプローチを見せてくれました。マーズ・ヴォルタがポストハードコアを突き抜けてプログレッシブとでも言うしかない境地に達していたのに対して、ここで見られるのは「ポスト」という言葉も取ってしまったハードコアパンク、なんじゃないかと。とはいえ、そんな言葉でまとめてしまえるような一筋縄ではいかないサウンドであるのも確か。心して聴きましょう。


3位 Against Me! 『Transgender Dysphoria Blues』

Transgender Dysphoria Blues

Transgender Dysphoria Blues

 このアルバムについては、既にこのブログでも書いているので、それ以上書くことはあまりないです。「完璧なパンクアルバム」です。


2位 Foo Fighters 『Sonic Highways』

Sonic Highways

Sonic Highways

 Twitterからの引用ですが、「聴いていて本当に密度の濃い力作と感じる。前作でも感じたが、アンダーグラウンドなメタルやハードコアの背景と王道のアメリカンロックをこんな風に結び付けられるのは、フーファイだけかもしれない」ということですね。ほんとに濃い曲ばかりです。全8曲約42分で、ボーナストラックもないわけですが、たぶんこれに何か付け加えてしまったら、逆に消化不良を起こしてしまうかも。


1位 岡村靖幸 『彼氏になって優しくなって』

彼氏になって優しくなって

彼氏になって優しくなって

 ええ、シングルですよ。ここまで全部アルバムできて(一部にEPもありましたが)、1位はシングルですか、と。でも、そう思っちゃったんだからどうしようもない。この曲は、本当に本当に傑作です。たぶん『家庭教師』時代以来の名曲なんじゃないかな。佳曲と呼べる曲はその間にもたくさんありましたが、これは別格に感じます。アルバムも気長に待ってます!



 …というわけで、ずっとロックで押してきて、最後が岡村ちゃんという、一体お前何なんだよというランキングになりましたが、これが俺の今年の私的ベスト20です。まだまだ聴けてないものやここに入れたかったものもありますが、とりあえずこの辺で。
来年もよろしくお願いします。

2014年 私的ベスト20(洋楽邦楽問わず) その1

 ずっと開店休業状態の当ブログですが、これだけは今年もやりますよ。
今年は音楽関係のメディア(雑誌やWEBメディア)の多くによると、わりと小粒な感じだったみたいな言説が多いですが、個人的には、最終的に面白い作品がいくつも聴けて、楽しい年だったと思います。
特にアメリカのNoiseTradeというサイトにハマって、インディ系のバンド/アーティスト(新人ばかりではなく、中にはベテランと呼べる人たちもいました)に多く触れられたのが、個人的に大きなトピックでした。NoiseTradeについては、そのうちまた別にきちんと記事を書きたいと思いつつ果たせていません。(Twitterではしょっちゅうつぶやいてますが。) ま、これはまた今後の宿題ということで。
で、去年はベスト10ってことにしてましたが、選んでるうちに数が増えちゃったので、今年はベスト20にします。縛りとしては、2014年リリースで俺が「購入」したもの、ということで行きます。
…が、書いてるうちにどんどん長くなってしまったので、ここはまず20〜11位までで。10〜1位は次の記事で。

20位 Machine Head 『Bloodstone & Diamonds』

Bloodstone & Diamonds

Bloodstone & Diamonds

 今年はあんまりメタル系は聴いてなかったんですが、これは昔から好きなバンドだったので、半分義務的なノリで聴きました。でも、良かった。1曲目からストリングスがバリバリ入って、盛り上がります。従来のスラッシュ/グルーヴメタル的な要素に加えて「様式美」が導入された感じでしょうか。今時それっていいのか、という気もしますが、いや、いいものはいいからしょうがない。メタル系は他にもSlipknotやMastodonも力作をリリースしていますが、その中では俺はこれが一番好き。


19位BABYMETAL 『BABYMETAL』

BABYMETAL(通常盤)

BABYMETAL(通常盤)

 はい、アイドルですね。アイドルははっきり言って守備範囲外で、このグループも当初は色物として見ていましたが、でも、実際に聴くといいじゃん、と。いくつかの曲は、「アイドルポップスをメタル風アレンジにしてみました」と聞こえてしまうのは否定できませんが、いくつかの曲は「メタルの曲をアイドルが歌っている」ものになっています。そのうちここから「メタルでもアイドルでもないもの」が生まれてくるとさらに面白いかもしれないなー、などと思ったり。ディーパーズ/特撮のナラサキさんやAA=の上田さんの曲が特に気になるのは、俺のリスナー歴的に仕方ない。でも、どれも結構好きです。


18位The Last Internationale 『We Will Reign』

ウィ・ウィル・レイン

ウィ・ウィル・レイン

 もともとプロテストフォーク寄りのデュオにRage Against The Machineのドラマー、ブラッド・ウィルクが参加して完成したアルバムです。政治的な側面が取り沙汰されがちなバンドでもありますが、とにかく一度聴いてみてください。


17位 Wess Meets West 『When The Structures Fail Us』

When the Structures Fail Us

When the Structures Fail Us

 アメリカのマイナーなポストロック寄りのインストゥルメンタルロックバンドです。中にはボーカルというかコーラス(合唱?)が入った曲もあります。ものすごく簡単に言えばモグワイフォロワーの一つですが、単純に曲がいいでしょ? このアルバムはCDのリリースはしてないのかな。Amazonではデジタルの取扱しかないようです。日本でもDaymare辺りからリリースしてくれないかなー、そして、日本に呼んでくれ。(無茶ぶり)


16位 My Brightest Diamond 『This Is My Hand』

This Is My Hand

This Is My Hand

 これは上記のNoiseTradeで知った人です。こういう音楽をどう表現していいのか分かりませんが、ダンス寄りのマニアックなポップス? うーん、こっち方面の語彙があんまりないんだな、俺…。広い意味ではビョークとかに近いのかな…。ともかく聴いてみてほしいです。かっこいいです。


15位 Royal Blood 『Royal Blood』

ロイヤル・ブラッド

ロイヤル・ブラッド

 ロキノンのサイトなんかでも強烈にプッシュされていたような気がするUKの2人組。ドラマーと、ベース/ボーカルという編成ですが、ベースをギターアンプにも繋いで、1人でギターとベースの音を両方出すという力技が目を引きます。でも、それ以上に「ロック」の新人が出てきたな、という印象の方が強いですね。きちんとグルーヴして、「ロール」もあるロック。


14位 TwiceYoung 『Prefer You』

Prefer You

Prefer You

 これも限りなくどマイナーなアメリカのインディバンド。CDはもちろん出てません。しかもこれは6曲入りのEP。多分、俺が今年NoiseTradeで知ったバンド/アーティストの中では一番よく聴いたのが、彼らの前作『Little Mind Alike』というEP。ポストロックや広義のオルタナティヴロックやシューゲイザー系譜に位置づけられるバンドだと思います。早くフルアルバムが聴きたい。日本では(アメリカでも?)全然知られていないバンドなので、唾を付けるなら今のうちですよ!


13位 Mark Lanegan Band 『Phantom Radio』

Phantom Radio + EP

Phantom Radio + EP "No Bells On Sunday"

 前作『Blues Funeral』でもその傾向がありましたが、今回はかなり打ち込みに近づいたな、という印象を持ちました。そういった「モダン」と言ってもいい要素がありながらも、最終的には「枯れてて渋い」なんて思わせてしまう声の強さも感じます。聴きましょう。


12位 Bloodpheasant 『Traum』

Traum

Traum

 これまたどマイナーですいません。YouTubeで探しても、まともな動画が出てきません。
 本人たちは、自分たちの音楽のことを「ドゥームフォーク」と呼んでいるようですが、まー、スラッジとかストーナーとか、あの辺の感じが濃厚です。良いです。

ちゃんとした試聴はbandcampからもどうぞ。→ http://bloodpheasant.bandcamp.com/album/traum


11位 Vio System Divide 『Vio System Divide』

Vio System Divide / ヴァイオ システム ディバイド

Vio System Divide / ヴァイオ システム ディバイド

 えーと、友達がやってるバンドです。でも、これは本当に力作ですよ。しかし、フルアルバムとしては、約12年ぶりか…。次はもう少し早めに出してもらえると嬉しいです(笑)。スラッシュメタルやグラインドの影響が強い印象もありますが、ちゃんとモダンなへヴィロックを通過してきてるとも感じます。そして、今作はプログレッシブな感触もあって、さらに次の次元に行ったな、と思わせられました。メタル好きな人は是非。



ということで11位までご紹介しました。
10位からは次の記事で。